・・・柱や手すりを白樺の丸太で作り、天井の周縁の軒ばからは、海水浴場のテントなどにあるようなびらびらした波形の布切れをたれただけで、車上の客席は高原の野天の涼風が自由に吹き抜けられるようにできている。天井裏にはシナふうのちょうちんがいくつもつるし・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
一 草をのぞく 浅間火山のすそ野にある高原の一隅に、はなはだ謙遜なHという温泉場がある。ふとした機縁からそこでこの夏のうちの二週間を過ごした。 避暑という、だれもする年中行事をかつてしたことのなかった自・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
七月十七日朝上野発の「高原列車」で沓掛に行った。今年で三年目である。駅へ子供達が迎いに来ていた。プラットフォームに下り立ったときに何となく去年とはあたりの勝手が違うような気がしたがどこがどうちがったかということがすぐとは気・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・韮生 「ニナラ」高原。また「ニ」樹「オロ」豊富。夜須 「ヤシ」網を引く。別府 「ペッポ」小河。別役 「ペッチャ」河「クッ」咽喉。またチャムで「ボ」は遮断、「チョ」は山。仁西 「ニセイ」絶壁。野見 「ヌムイ」豊漁の湾。・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・夏休みに信州の高原に来て試みに植物図鑑などと引き合わせながら素人流に草花の世界をのぞいて見ても、形態がほとんど同じであって、しかも少しずつ違った特徴をもった植物の大家族といったようなものが数々あり、しかも一つの家族から他の家族への連鎖となり・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ただいまは高原君が樺太旅行談つけたり海豹島などの話をされましたが実地の見聞談で誠に有益でもあり、かつ面白く聴いておりました。私のは諸君に興味または利益を与えるという点において、とても高原君ほどに参りませぬ。高原君は御覧の通りフロックコートを・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ そしてただひとり暗いこけももの敷物を踏んでツェラ高原をあるいて行きました。 こけももには赤い実もついていたのです。 白いそらが高原の上いっぱいに張って高陵産の磁器よりもっと冷たく白いのでした。 稀薄な空気がみんみん鳴ってい・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・「ええ、ええ、もうこの辺はひどい高原ですから。」うしろの方で誰かとしよりらしい人のいま眼がさめたという風ではきはき談している声がしました。「とうもろこしだって棒で二尺も孔をあけておいてそこへ播かないと生えないんです。」「そうです・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
種山ヶ原というのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできています。 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五、六軒ずつの部落があります。 春になると、北上の河谷のあちこちから、沢山・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・の銅鍋や青い焔を考えながら雪の高原を歩いていたこどもと、「雪婆ンゴ」や雪狼、雪童子とのものがたり。 6 山男の四月四月のかれ草の中にねころんだ山男の夢です。烏の北斗七星といっしょに、一つの小さなこころの種子を有ちます。・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
出典:青空文庫