・・・汚たるを洗ひ浮世の外の月花を友とせむにつきつきしかるべしかし、かくいふは参議正四位上大蔵大輔源朝臣慶永元治二年衣更著末のむゆか、館に帰りてしるす 曙覧が清貧に処して独り安んずるの様、はた春岳が高貴の身をもってよく士に下るの様はこの文・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・「今晩は、大王どの、また高貴の客人がた、今晩はちょうどわれわれの方でも、飛び方と握み裂き術との大試験であったのじゃが、ただいまやっと終わりましたじゃ。 ついてはこれから連合で、大乱舞会をはじめてはどうじゃろう。あまりにもたえなるうた・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・当時の周囲から求められている女らしさとはまるでちがった悽愴な形で、その夫人の高貴で混りけない女の心の女らしさが発揮されなければならなかったのであった。女らしさの真実なあらわれが、過去においてもこのように喰いちがった表現をもつというところに、・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・音楽とか、絵画とか、芝居とかいう芸術を通じて、人間の生活は高貴なものであって、美しく正しく生きようとするよろこびにこそ生き甲斐があるということを教えて行くようなものは不足しています。体も精神も成長の慾望に溢れている少女達は、お腹の空いている・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・この高貴な人がらをもつ父に贈った。或る人はいっている。カールは、三人の「聖者」をもっていた。彼の父、彼の母、そして彼の妻と。この素晴らしい父は、一八三八年、カールが二十歳の時に腎臓病のためにトリエルで死んだ。 母のアンリエットは、オラン・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・此の潜める生来の彼の高貴な稟性は、終に彼の文学から我が文学史上に於て曾て何者も現し得なかった智的感覚を初めて高く光耀させ得た事実をわれわれは発見する。かくしてそれは、清少納言の官能的表徴よりも遥に優れた象徴的感覚表徴となって現れた。それは彼・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・彼は自身の頑癬を持った古々しい平民の肉体と、ルイザの若々しい十八の高貴なハプスブルグの肉体とを比べることは淋しかった。彼は絶えず、前皇后ジョセフィヌが彼から圧迫を感じたと同様に、今彼はハプスブルグの娘、ルイザから圧迫されねばならなかった。こ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・戦国時代のことであるから、陰謀、術策、ためにする宣伝などもさかんに行なわれていたことであろうが、しかし彼は、そういうやり方に弱者の卑劣さを認め、ありのままの態度に強者の高貴性を認めているのである。そうしてまたそれが結局において成功の近道であ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・その鈍色はいかにも高貴な色調を帯びて、子供の心に満悦の情をみなぎらしてくれる。そうしてさらに一層まれに、すなわち数年の間に一度くらい、あの王者の威厳と聖人の香りをもってむっくりと落ち葉を持ち上げている松茸に、出逢うこともできたのである。・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・偉大な西洋文明を真髄まで吸収しつくした後に、初めて真に高貴な日本的がその内に現われるのではないだろうか。 この際このことを言うのはやや自己弁解に類する。しかし私はそう信じている。 今度の世界戦争は恐らく Menschheit の向上・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫