・・・ 今にさし迫ったことではないという、潜在的な余裕、安心と、彼女の空想によって神秘化され、何かしら魅惑的な色彩をほどこされている死そのものの概念とが、どんな幸福な若者の心をも、一度は必ず訪れるに違いない感傷的な憂愁の力をかりて、驚くべき劇・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ ところで、こんなにもツルゲーネフの一生にとって重大な意味をもっているパリは、何によって彼をそのように牽きつけ、魅惑したのであろうか? 果して、ツルゲーネフが回想に書いているだけがその全部の理由であったのだろうか。 ここで、我々・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・どこか気性に独創的なところのある、富裕な教養たかいこの令嬢のまわりには、当然崇拝者の何人かが動いていたろうしまたどこの社会でも共通なように、彼女の両親の社会的な地位により多くの魅惑を感じている青年やその親たちが、月並のお世辞で彼女をとりまい・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫