・・・竹羊羹というのは青竹のひと節に黒砂糖入り水羊羹をつめて凝固させたものである。底に当たる節の隔壁に錐で小さな穴を明けておいて開いた口を吸うと羊羹の棒がなめらかに抜け出して来る、それを短く歯でかみ切って食う、残りの円筒形の羊羹はちょっと吹くとま・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 吉浜へ行っても煙草がなく、菓子がない。黒砂糖でもないかと聞いて歩いたが徒労であった。煙草と菓子の中毒にかかっている文明病患者は、こういうところへ来ると、頭がぼんやりしてしまう。そうして朝から晩まで鱒一点張りの御馳走をうけた。実にテンポ・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・不完全なのは、我々の心掛が至らぬからの横着に起因するのだからして、もう少し修養して黒砂糖を白砂糖に精製するような具合に向上しなければならんという考で一生懸命に努力したのである。すなわち昔の人には批判的精神が乏しかった。昔から云い伝えている孝・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・梟の大将はみんなの方に向いてまるで黒砂糖のような甘ったるい声でうたいました。「からすかんざえもんは くろいあたまをくうらりくらり、 とんびとうざえもんは あぶら一升でとうろりとろり、 そのくらやみはふくろうの いさみ・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
出典:青空文庫