・・・この間に立って論難批評したり新脚本を書いたりするはルーテルが法王の御教書を焼くと同一の勇気を要する。『桐一葉』は勿論『書生気質』のようなものではない。中々面白い。花見の夢の場、奴の槍踊の処は坪内君でなくてアレほど面白く書くものは外にあるまい・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・会は非常な盛会で、中には伯爵家の令嬢なども見えていましたが夜の十時頃漸く散会になり僕はホテルから芝山内の少女の宅まで、月が佳いから歩るいて送ることにして母と三人ぶらぶらと行って来ると、途々母は口を極めて洋行夫婦を褒め頻と羨ましそうなことを言・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
一 予言者のふたつの資格 日蓮を理解するには予言者としての視角を離れてはならない。キリストがそうであったように、ルーテルがそうであったように、またニイチェがそうであったように、彼は時代の予言者であった。普通・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 近ごろボルンが新しい統計的物理学の基礎を論じた中に、ウィルヘルム・テルがむすこの頭上のりんごを射落とす話を引き合いにだした。昔の物理学者らが一名を電子と称するテルの矢のねらいは熟練と注意とによって無限に精確になりうると考えたに反して、・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・ 一方で高倉テル氏をつかまえ自由を剥奪し、ハンストを行わせるまでにしながらかくすよりあらわるるはなしで、こんなくだらないことでこれほど民自党を周章狼狽させた泉山蔵相は現代のカリカチュアです。 山下春江代議士の日ごろの態度にもすきがあ・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・ ルーテルの何代目の孫だとか云う男が、人々の間を游ぎ廻ってしきりに何か説いて居る。 一代目よりは体もやせこけて、ピコピコした様子をして居る。 こわれたカブトを気にして居るナイトのドンキホーテと同じ木の根に腰をかけて仲よくして居る・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・近代の歴史の担当者として現れたブルジョアジーは、王権を否定して市民の権利を確立すると共に、ルーテルを先頭に立てて、法王に統率され経済的政治的に専制勢力の柱である天主教の仕組を否定した。そして、市民一人一人の精神の内に在る神としてのキリスト教・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・p.72のルカシュスの言葉〔欄外に〕 ドイツ ルーテル スコットランド ノックス フランス カルヴァンイタリーの乱脈 メディシスの私生子万歳時代への反動として。p.72 宗教改革とギルド=市民階級のもの、・・・ 宮本百合子 「バルザック」
・・・キーツが山の人の衣を着くる時ウィルヘルム・テルは弓矢を持って出現する。テルは詩人の理想に生まれた第一義の人である。 霊の権威を知り、多少内的生命を有する人にしてなお虚栄に沈湎して哀れむべき境地に身を置く人がある。虚栄は果てなき砂の文字で・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫