・・・と咽せて、灰吹を掴んだが間に合わず、火入の灰へぷッと吐くと、むらむらと灰かぐら。「ああ、あの児、障子を一枚開けていな。」 と黒縮緬の袖で払って出家が言った。 宗吉は針の筵を飛上るように、そのもう一枚、肘懸窓の障子を開けると、颯と・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・中山みき子の『みかぐら歌』であったときさえあるのである。 かような時期においては反復熟読して暗記するばかりに読み味わうべきものである。 一度通読しては二度と手にとらぬ書物のみ書庫にみつることは寂寞である。 自分の職能の専門のため・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・さよかぐら。 とみよしや、おぬゐ。琴。うすごろも。 おりやう。琴。ゆきのあした。 すみ寿。琴。さくらつくし。 おあそ。琴。きりつぼ。 おけふ。琴。こむらさき。 おのみちや、こわさ。さみせん。四きのながめ。・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・ 向うの神楽殿には、ぼんやり五つばかりの提灯がついて、これからおかぐらがはじまるところらしく、てびらがねだけしずかに鳴っておりました。(昌一と亮二は思いながら、しばらくぼんやりそこに立っていました。 そしたら向うのひのきの陰の暗い掛・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・一応は、封建より近代生産経済にうつるブルジョア革命のようであったが、その最も根柢をなす農業と土地の問題、生産経済の基礎などは、封建時代の制度のままその上へ近代国家としての日本が、おかぐらの二階建として据えられた。例えば土地の問題を見る。日本・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫