出典:青空文庫
・・・或は、立って働くには不便な不具の男の仕事とされた。アンデルセンの「絵のない絵本」の一番初めの話は、高い屋根裏の部屋で朝から晩までモール刺繍をして暮している娘の窓に月が毎晩訪れて、お話をして聴かせるという話だったと思う。都会の屋根うらのそうい・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・何処かに此 赫きと色とを掬いとる 小籠はないか賢い ハンス・アンデルセンノーウェーで、五月の空気は 薫しくありませんですか? 宮本百合子 「五月の空」
・・・ ゆうべは良さん、ター坊の親たち、重治さん、栄さん夫婦などと、どじょうのおつゆをたべて大変面白くいろいろ――アンデルセンの自伝のことその他を話しました。 きょうは、手紙をいただいて、笑い出しつつ握って振ったゲンコをこのような形にかえ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ましてや、アンデルセンという北欧の文学者を、その本人の精神よりもロマンティックに日本に紹介した「即興詩人」の訳は出来なかったであろう。文学のえらさはいつもどこか世間並のえらさのけたをはずしている。ゲーテは十八世紀末から十九世紀の初頭にかけて・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ アンデルセンの童話を、所謂童話と思ってよむ人はない。葉紹鈞の「稲草人」「古代英雄の石像」を童話として紹介すれば、人々は、中国の誠実な一つの心情がその中に流している暗涙の重みにおどろくだろう。 ガルシンの「赤い花」は昔のロシアの・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 彼は、ゴーリキイに、アンデルセンの有名な「見っともない雄鴨」の話を知っているかと訊いた。「この話は――誘惑する。君ぐらいの年には僕も、自分は白鳥じゃないか? と考えたもんだ。進歩――それは気休めだよ。人間が求めているのは忘却、慰安・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」