出典:青空文庫
・・・私の知っている範囲でも、毎日電車に乗っている間だけロシア語を稽古したり、カントを読んだりしてそれで相当な効果をあげた人さえある。しかしかりにそういう人が例外であるとしても、ともかくも毎朝新聞を読むのといいまとまった書物を読むのと比べてどちら・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・「カントは活力論を著せり、余は反って活力を弔う文を草せんとす。物を打つ音、物を敲く音、物の転がる音は皆活力の濫用にして余はこれがために日々苦痛を受くればなり。音響を聞きて何らの感をも起さざる多数の人我説をきかば笑うべし。されど世に理窟をも感・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・もっともこの空間論も大分難物のようで、ニュートンと云う人は空間は客観的に存在していると主張したそうですし、カントは直覚だとか云ったそうですから、私の云う事は、あまり当にはなりません。あなた方が当になさらんでも、私はたしかにそう思ってるんだか・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
一 カント哲学以来、デカルト哲学は棄てられた。独断的、形而上学的と考えられた。哲学は批評的であり、認識論的でなければならないと考えられている。真の実在とは如何なるものかを究明して、そこからすべての問題・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・なくなりぬべしなど、古人もいったように、親の愛はまことに愚痴である、冷静に外より見たならば、たわいない愚痴と思われるであろう、しかし余は今度この人間の愚痴というものの中に、人情の味のあることを悟った。カントがいった如く、物には皆値段がある、・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・たしかに人の言ふ如く、カントの哲学も難解である。特に僕等のやうな「柔軟な頭脳」の所有者にとつては、あの幾何学公式のやうな書体で書かれた「純粋理性批判」の第一頁を読むだけでも、独逸的軍隊教育の兵式体操を課されたやうで、身体中の骨節がギシギシと・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・さりながら、結局は、叫び声以外わからない。カント博士と同様に全く不可知なのである。 さて豚はずんずん肥り、なんべんも寝たり起きたりした。フランドン農学校の畜産学の先生は、毎日来ては鋭い眼で、じっとその生体量を、計算しては帰って行った。・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・十九世紀のシムボリストのところを見たらカントの哲学との関係についてノートがあって面白い。いろいろ面白い。万年筆でひかれてある条の傍に更に点をうってゆくようなこともあります。そういうときは大変に又面白い。(もう眠ろうとしてメガネをはずしたのに・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・彼女は、新カント派と多くの論戦を交えたが、弁証法を軽視し、その思惟が機械的だったことは、結局道徳律の問題において彼女を敵の陣営――彼女が一生涯それらと闘ったその敵の陣営に導いた。」 大体思索し得る女流の間に道徳家が多いのは何故であろうか・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・を新カント派の連中は宿命論 運命論にまで歪めている。――不可避論において。――自由主義的インテリゲンツィアが革命を不可避と認める心持の中には多分にこの新カント派の影響がある。「歴史過程の合則性は社会的実践を通じて 自分に目的を課し、且つ・・・ 宮本百合子 「「若い息子」について」