出典:青空文庫
・・・私はその女と会わないでいる時はせめて煙草のにおいをなつかしもうと思った。バットやチェリーやエアシップは月並みだと思ったが、しかし、ゲルベゾルテやキャメルやコスモスは高すぎた。私はキングという煙草を買って練習した。一箱十銭だった。 口に煙・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・講談社がキングという雑誌を復活させたという新聞広告を見て、私は列国の教養人に対し、冷汗をかきました。恥ずかしくてならないのです。 どうして、こんなに厚顔無恥なのでしょう。カルチベートされた人間は、てれる事を知っています。レニンは、とても・・・ 太宰治 「返事」
・・・ 葬式はターリングで行われた。キングは名代を遣わして参列させ、その他ケンブリッジ大学や王立協会の主要な人々も会葬し、荘園の労働者は寺の門前に整列した。墓はターリング・プレースの花園に隣った寺の墓地の静かな片隅にある。赤い砂岩の小さな墓標・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
サークル活動をするものの心得として、よく云われる言葉がある。それは、サークルというものは『キング』の読者をもひっくるめての文化的政治的組織でなければならないという言葉である。 現在『キング』がそれほどひろく大衆の間によ・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・「――しかしですね」 清水はぐっとのり出した。「その文章そのものはそうかもしれないが、前後との関係で、いけないんだ。……大体、戦争の記事を扱うのがいけない」「それは妙だ」自分は云った。「キングを御覧なさい。婦人倶楽部を御覧なさい・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 大衆というものを、文化においても創造的能力より消費的面において見る、つまり『キング』と浪花節と講談、猥談をこのむものとしてだけ見て、しかもそういう大衆の中には種々な社会層の相異があり、その相異から生じる利害の相異もまたあるという現実を・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・素晴らしそうなのが沢山あり、特にバートンのアラビアンナイトの原版、小画風の插画のあるキング・アーサー物語の新版がひどく興味をそそった。日夏耿之介氏がアラビアンナイトを訳されると云う広告を見たこともおもい出し、黒衣聖母のうしろを見たら、バート・・・ 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・大衆小説のどっさりのる雑誌は講談社のキングその他新聞社、博文館などの娯楽雑誌で、そういう雑誌では同じ経済記事にしろ勤労大衆がそれで生活している労働賃銀とはどういう仕組みのものであるか、働く時間とその賃銀の関係はどうなっているか、というような・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ 前の座席の旅客が雑誌キングをわきに放り出して二十六日の新聞をひろげていた。こっち側から見える。「日本刀焼ゴテで奮戦・文芸戦線大異状。」前田河広一郎・葉山嘉樹・岩藤雪夫及黒島伝治の写真。 東京へかえったら二三の知人が、 ――どう・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・すべての雑誌の表紙は刺戟的なグラビア版で赤や黒のフラッシュのついた文字で彩られているようなのであるけれども、そうかといって単純にキングと文芸春秋とは全く等しい傾向をもって、戦時特輯をしているかと云えば、そうでないことは自明である。 ここ・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」