出典:青空文庫
・・・ 今は古い例を挙げたが、今度はもっと新しい例を挙げれば、イブセンという人がある。イブセンの道徳主義は御承知の通り、昔の道徳というものはどうも駄目だという。何が駄目かといえば、あれは男に都合の宜いように出来たものである。女というものは眼中・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・パッセン大街道も今日はいきものの影さえないぞ。」「そうか。ずいぶんひどい雨だ。」「ところで君も知ってる通り、明後日は僕の結婚式なんだ。どうか来て呉れ給え。」「うん。そうそう。そう云えばあの時あのちっぽけな赤い虫が何かそんなこと云・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・一日十斤以上こんぶを取ったらあとは一斤十セントで買ってやろう。そのよけいの分がおまえのもうけさ。ためて置いていつでも払ってやるよ。その代り十斤に足りなかったら足りない分がお前の損さ。その分かしにして置くよ。」 ネネムは実にがっかりしまし・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ 五、センダード市の毒蛾 そしてだんだん暑くなってきました。役所では窓に黄いろな日覆もできましたし隣りの所長の室には電気会社から寄贈になった直径七デシもある大きな扇風機も据えつけられました。あまり暑い日の午後など・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・――御参考までに○ 婦人民主クラブ役員改選のこと 来る六月十三日の会合で、多分役員改選が議題にのぼるでしょう 今まで発企人のいすわり常任幹事でしたが幹事全体と地区の代表のような人でセンコウ委員を選んで そこからのスイセンコー・・・ 宮本百合子 「往復帖」
○長や 玉やの玉のブつかる音。小さい家から一日じゅうラジオか、やすチク音キがきこえる。窓からとび込んで来る猫。葬儀やの二階の講。台所にタライにビールをつけてある。ベコベコジャミセン○物干しに出て、どじょうすくいを踊るのを・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・或人はイブセンの如く燃え立つ自己の正義感と理想とに写る人間の愚悪に忍びず詰問から、書く人がある。或者は、ゲーテの如く思索の横溢から或は又、外界と調和し得ぬ孤独な魂の 唯一の表現として人類は、多くの芸術・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・建物を破壊しないで人間はセン滅するから原子爆弾よりも有効であるなどと人間ならば言いかねる言葉を日本の新聞は書いております。しかしまた同じ日本の新聞はほんの小さく世界戦争の危機は迫っていないという大統領に立候補するスタッセンの言明をのせていま・・・ 宮本百合子 「世界は平和を欲す」
・・・の運動は、日本にイブセンとかエレン・ケイとか、婦人の解放を観念の面から取扱った思想が文芸運動として輸入された一九〇八年頃結成された。『青鞜』は文化運動としての女性の天才の発揮、限りない知的能力の発露ということを目標とした。けれども、根深い婦・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・義務が事実として証拠立てられるものでないと云うことだけ分かって、怪物扱い、幽霊扱いにするイブセンの芝居なんぞを見る度に、僕は憤懣に堪えない。破壊は免るべからざる破壊かも知れない。しかしその跡には果してなんにもないのか。手に取られない、微かな・・・ 森鴎外 「かのように」