出典:青空文庫
・・・怪談だの百物語だのと云うものの全体が、イブセンの所謂幽霊になってしまっている。それだから人を引き附ける力がない。客がてんでに勝手な事を考えるのを妨げる力がない。 人も我もぼんやりしている処へ、世話人らしい男が来て、舟へ案内した。この船宿・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・ わがザックセン軍団につけられて、秋の演習にゆきし折り、ラアゲウィッツ村のほとりにて、対抗はすでに果てて仮設敵を攻むべき日とはなりぬ。小高き丘の上に、まばらに兵を、ザックセン、マイニンゲンのよつぎの君夫婦、ワイマル、ショオンベルヒの両公・・・ 森鴎外 「文づかい」
・・・ あそこにイブセンの墓がある。あそこにアイスフォオゲルの家がある。どこかあの辺で、北極探険者アンドレエの骨が曝されている。あそこで地極の夜が人を威している。あそこで大きな白熊がうろつき、ピングィン鳥が尻を据えて坐り、光って漂い歩く氷の宮・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・――私イブセンは大嫌い。私の望みは美と生の焔です。メエテルリンクは好きですけれど、少しぼんやりしているようですね。――私の試みは失敗でした。何を言ってもサルドゥやピネロを演らなければならないのですもの。いつか若い美しい火のような焔の・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」