出典:青空文庫
・・・意気込んで舞台へ飛び出したが、相手役がいなかったというバツの悪さをごまかすには、せめて思いも掛けぬお加代という登場人物を相手にしなければならない。「へえん、随分ご親切だけど、かえって親切が仇にもなるわよ」 と、お加代はしかし大根役者・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・内の女連はバツが悪いから留守を使って追い返した。この玄関払の使命を完うしたのがペンである。自分は嘘をつくのは嫌だ。神さまにすまない。しかし主命もだしがたしでやむをえず嘘をついた。まずたいていここら当りだろうと遠くの火事を見るように見当をつけ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 交代した書記の一人が朗読最中、苦しまぎれトッサの智慧で「我々はバツバツ主義の」というやいわぬに、 中止! これは、みんなの哄笑と猛烈な抗議的拍手をよび起した。 議事録はと見れば、そもそも一九三〇年度の作家同盟の文学活動・・・ 宮本百合子 「文芸時評」