出典:青空文庫
・・・ 鼻 クレオパトラの鼻が曲っていたとすれば、世界の歴史はその為に一変していたかも知れないとは名高いパスカルの警句である。しかし恋人と云うものは滅多に実相を見るものではない。いや、我我の自己欺瞞は一たび恋愛に陥ったが最後、・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・英のシエクスピールやミルトンや仏のパスカルやコルネイユや皆別に機軸を出さざる莫し。然らずんば何の尊ぶ可きことか之れ有らん。 記してあるのみならず、平生予に向っても昔し蘇東坡は極力孟子の文を学び、竟に孟子以外に一家を成すに至った。若し・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・○昼は消えつつものをこそ思う。○水戸黄門、諸国漫遊は、余が一生の念願也。○私は尊敬におびえている。○没落ばんざい。○パスカルを忘れず。○芸娼妓の七割は、精神病者であるとか。「道理で話が合うと思った。」○誰か見てい・・・ 太宰治 「古典風」
・・・私は、多くの思想家たちが、信仰や宗教を説いても、その一歩手前の現世のヴァニティに莫迦正直に触れていないことを不思議がっているだけである。パスカルは、少々。 ヴァニティは、あわれなものである。なつかしいものである。それだけ、閉口なものであ・・・ 太宰治 「答案落第」
・・・けれども、メリメにしろ、ゴオゴリにしろ、――また、いま、ふと頗る唐突に思い浮んだのであるが、シャトオブリアン、パスカルほどの大人物でも、――どのように、その時代の世評を顧慮し、人しれぬ悪戦苦闘をつづけたことか、私はそれに気がつき、涙ぐましく・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・モンテーニュを読めば、モンテーニュ。パスカルを読めば、パスカル。自殺の許可は、完全に幸福な人にのみ与えられるってさ。これもヴァレリイ。わるくないでしょう。僕らには、自殺さえ出来ない。この本は、あげます。おうい、おかみさん、ここの勘定をしてく・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・直感的に訴えるものがあるのである。パスカルの語を借りていえば、単に l'esprit de gomtrie[幾何学の精神]でなくて、l'esprit de finesse[繊細の精神]というものがあると思う。フランス哲学の特色は後者にある。・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・ パスカルだの、プロメシウスだの、ヨーロッパの文学の中からの言葉が「紋章」の中には散見するのであるが、精神的高揚の究極は茶道の精神と一脈合致した「静中に動」ありという風な東洋的封建時代の精神的ポーズに戻る今日のインテリゲンチア作家の重い・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」