出典:青空文庫
・・・そうかと思うと飛行機の通俗講義があったり探偵小説があったり、ヘッケルの「宇宙のなぞ」の英訳の安値版がころがっていたりする。この露店の所へ来ると自分の頭が急に混雑してあまり愉快でない一種の圧迫を感じる。そして自分の日曜日の世界とはあまりにかけ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・丁度ヘッケルのような風をした眉間に大きな傷あとのある人が俄かに椅子を立ちました。私は今朝のパンフレットから考えてきっとあれは動物学者だろうと考えたのです。 その人はまるで顔をまっ赤にしてせかせかと祭壇にのぼりました。我々は寛大に拍手しま・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・千葉先生が、教科書以外に図書室から借りてよめるいくつかの本を教えられた。ヘッケルの『生命の神秘』という本もあった。文学の本は自分の滅茶な選択でもおのずから整理されてよめたが、文学以外の読書のひろがりを示して頂いたのは、ほかならぬ千葉先生であ・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・この先生が学課の単調さに苦しんでいる私の知識慾に流れ口を見出すきっかけをつけてくれられた。ヘッケルの宇宙の謎という本を教えて、文学以外の分野へ読書の力をひろめても下すった。 こういう時代を思いかえすと、私は震災で焼けてしまった昔のお茶の・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・秀麿だって、ヘッケルのアントロポゲニイに連署して、それを自分の告白にしても好いとは思っていない。しかしお父う様のこの詞の奥には、こっちの思想と相容れない何物かが潜んでいるらしい。まさかお父う様だって、草昧の世に一国民の造った神話を、そのまま・・・ 森鴎外 「かのように」