出典:青空文庫
・・・ ほんとうは、マルクス、エンゲルス両先生を、と言いたいところでもあろうが、いやいや、レニン先生を、と言いたいところでもあろうが、この作者、元来、言行一致ということに奇妙なほどこだわっている男で、いやいや、そう言ってもいけない、この作者、・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・古いノオトのちりを吹き払って、カントやヘエゲルやマルクスを、もういちど読み直して、それから、酒をつつしんで新しい本も買いたい。やはり弁証法に限る、と惚れ直すかも知れない。そうでないかも知れない。もっともっと勉強してみてからでなければわかるま・・・ 太宰治 「多頭蛇哲学」
・・・すると何かまた、わかる事があるかも知れない。マルクスの口髭は、ありゃ何だ。いったいあれは、どういう構造になっているのかな。トウモロコシを鼻の下にさしはさんでいる感じだ。不可解。デカルトの口髭は、牛のよだれのようで、あれがすなわち懐疑思想……・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・後世の頭のいい史家でヨーヨーとマルクスの関係を論ずるものが出ないとも限らない。七月下旬に沓掛へ行ったときは時鳥が盛んに啼いたが、八月中旬に再び行ったときはもう時鳥を聴くことが出来なかった。すべては時の函数である。 十・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・その後裔の一人であったマルクスには、「経済」という唯一の見地よりしか人間の世界を展望することが出来なかった。それで彼の一神教的哲学は茫漠たるロシアの単調の原野の民には誠に恰好なものであり、満洲や支那の平野に極めてふさわしいものでなければなら・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 二 大掃除の午後の路地の交互点、こわれたおもちゃに葱大根の尻尾、空瓶空ボールの交響楽、マルクス、ムッソリニの赤ん坊の夢を買わないか。汚いものは美しく、美しいものはきたなく。のっぺりの中へ少しこまこまと金銀紫・・・ 寺田寅彦 「二科狂想行進曲」
・・・幸いに永生きをして八十くらいになったら、その時にそろそろマルクス、エンゲルスの研究でも始めるだろうと皆でうわさをすることである。しかし負け惜しみの強い彼の説によると「世界は循環する。いちばんおくれたものが結局いちばん進んでいることになる」と・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・それで二三か月も勉強すればだれでもラッセルとかマルクスとかいう人の名前ぐらいは覚える事ができるのだろう。 街路に向かった窓の内側にさびしい路次のようになって哲学や宗教や心理に関する書棚が並んでいる。 不思議な事に自分は毎年寒い時候が・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・「――いえさ、おれのような職人だったんだが、マルクスと一緒にドイツ革命に参加したり、哲学書をかいたり、非常にえらい人だったそうだ」 母親は、それで見当がついた風で、「すると、やっぱりシャカイシュギかい?」 などという。――・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 私は高い窓の鉄棒に掴まりながら、何とも言えない気持で南瓜畑を眺めていた。 小さな、駄目に決まり切っているあの南瓜でも私達に較べると実に羨しい。 マルクスに依ると、風力が誰に属すべきであるか、という問題が、昔どこかの国で、学者た・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」