出典:青空文庫
・・・ ――さて、毛越寺では、運慶の作と称うる仁王尊をはじめ、数ある国宝を巡覧せしめる。「御参詣の方にな、お触らせ申しはいたさんのじゃが、御信心かに見受けまするで、差支えませぬ。手に取って御覧なさい、さ、さ。」 と腰袴で、細いしない竹・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・ 三 運慶が木材の中にある仁王を掘り出したと云われるならば、ブローリーやシュレディンガーは世界中の物理学者の頭の中から波動力学を掘り出したということも出来るであろう。「言葉」は始めから在る。それを掘り出すだけ・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・頭は薬缶だが鬚だけは白いと云えば公平であるが、薬缶じゃ御話しにならんよと、一言で退けられたなら、鬚こそいい災難である。運慶の仁王は意志の発動をあらわしている。しかしその体格は解剖には叶っておらんだろうと思います。あれを評して真を欠いてるから・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・第六夜 運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいると云う評判だから、散歩ながら行って見ると、自分より先にもう大勢集まって、しきりに下馬評をやっていた。 山門の前五六間の所には、大きな赤松があって、その幹が斜めに山門の甍を隠して・・・ 夏目漱石 「夢十夜」