出典:青空文庫
・・・また道灌が傘の代りに山吹の花を貰ったという歴史的の原でもない。僕は自分で限界を定めた一種の武蔵野を有している。その限界はあたかも国境または村境が山や河や、あるいは古跡や、いろいろのもので、定めらるるようにおのずから定められたもので、その定め・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・あの早稲田の学生であって、子規や僕らの俳友の藤野古白は姿見橋――太田道灌の山吹の里の近所の――あたりの素人屋にいた。僕の馬場下の家とは近いものだから、おりおりやってきて熱烈な議論をやった。あの男は君も知っているだろう。精神錯乱で自殺してしま・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・ 動坂の上にたって今日東の方を眺めると、坦々たる田端への大通りの彼方にいかにも近代都市らしい大陸橋が見え、右手には道灌山の茂みの前に大成中学校の建物が見える。それにつづいて上野の森がある。 焼けなかった頃の動坂は、こまかい店のびっし・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ その細い道は、うねうねとつづいてずっと先まで行っているが、人のとおる道と、すぐそこからはじまっている道灌山との境は誰にもわからなかった。道は、道灌山そのものの崖ぷちにそって通っており、三人の子供がきまってそこへゆく柵のところも、実はも・・・ 宮本百合子 「道灌山」