出典:青空文庫
・・・ダンテは神曲においてポーロとフランチェスカとの不義の愛着を寛大に取り扱った。しかしながら現代の男女としてはかような情緒にほだされていわゆる濡れ場めいた感情過多の陥穽に陥るようなことはその気稟からも主義からも排斥すべきであって、もっと積極的に・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ 兄の妻とならなかった頃からの直を二郎が知っているという偶然が、一郎の苦悶を一層色どって、「二郎、何故肝心な夫の名を世間が忘れてパオロとフランチェスカだけ覚えているのか。その訳を知ってるか」とも口走らせる。 二郎がその問いを不快に感・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・にしろ、「パオロとフランチェスカ」の物語にしろ、スタンダールの「カストロの尼」にしろ。近代キリスト教は、その資本主義社会のモラルとして恋愛と結婚の純潔を主張した。家庭の純潔をもとめた。相手に対して貞潔であること――精神と肉体とが互の愛の調和・・・ 宮本百合子 「貞操について」