せ‐けん【世間】例文一覧 46件

  1. ・・・が、そこに滞在して、敵の在処を探る内に、家中の侍の家へ出入する女の針立の世間話から、兵衛は一度広島へ来て後、妹壻の知るべがある予州松山へ密々に旅立ったと云う事がわかった。そこで敵打の一行はすぐに伊予船の便を求めて、寛文七年の夏の最中、恙なく・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・……それにお前は、俺しのしつけが悪かったとでもいうのか、生まれつきなのか、お前の今言った理想屋で、てんで俗世間のことには無頓着だからな。たとえばお前が世過ぎのできるだけの仕事にありついたとしても、弟や妹たちにどんなやくざ者ができるか、不仕合・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  3. ・・・ 詮方なさに信心をはじめた。世に人にたすけのない時、源氏も平家も、取縋るのは神仏である。 世間は、春風に大きく暖く吹かるる中を、一人陰になって霜げながら、貧しい場末の町端から、山裾の浅い谿に、小流の畝々と、次第高に、何ヶ寺も皆日蓮宗・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  4. ・・・       二 大雨が晴れてから二日目の午後五時頃であった。世間は恐怖の色調をおびた騒ぎをもって満たされた。平生聞ゆるところの都会的音響はほとんど耳に入らないで、うかとしていれば聞き取ることのできない、物の底深くに、力強い・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  5. ・・・千軒もあるのぞみ手を見定め聞定めした上でえりにえりにえらんだ呉服屋にやったので世間の人々は「両方とも身代も同じほどだし馬は馬づれと云う通り絹屋と呉服屋ほんとうにいいお家ですネー」とうわさをして居たら、半年もたたない中に此の娘は男を嫌い始めて・・・<著:井原西鶴 訳:宮本百合子「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」青空文庫>
  6. ・・・されば云うて、自分も兵隊はんの抜けがら――世間に借金の申し訳でないことさえ保証がつくなら、今、直ぐにでも、首くくって死んでしまいたい。」「君は、元から、厭世家であったが、なかなか直らないと見える。然し、君、戦争は厭世の極致だよ。世の中が・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  7. ・・・椿岳は芳崖や雅邦と争うほどな巨腕ではなかったが、世間を茶にして描き擲った大津絵風の得意の泥画は「俺の画は死ねば値が出る」と生前豪語していた通りに十四、五年来著るしく随喜者を増し、書捨ての断片をさえ高価を懸けて争うようにもてはやされて来た。・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  8. ・・・ンの精神がありますならば、すなわちわれわれが他人から聞いたつまらない説を伝えるのでなく、自分の拵った神学説を伝えるでなくして、私はこう感じた、私はこう苦しんだ、私はこう喜んだ、ということを書くならば、世間の人はドレだけ喜んでこれを読むか知れ・・・<内村鑑三「後世への最大遺物」青空文庫>
  9. ・・・三 さよ子は、この世間にも、楽しい美しい家庭があるものだと思いました。あまり遅くならないうちに帰らなければならぬと思って、窓ぎわを離れてから振り向くと、高い、青い時計台には流るるような月光がさしています。そして町を離れて、野・・・<小川未明「青い時計台」青空文庫>
  10. ・・・随分また縹致や気立てに惚れた縁組も、世間にないとは限りませんもの。阿母さんのように言ってしまった日には、まるで男女の情間なんてものはなさそうですけど、今だって何じゃありませんか、惚れたのはれたのと、欲も得も忘れて一生懸命になる人もあるし、よ・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  11. ・・・いわゆる月足らずで、世間にありがちな生れだったけれど、よりによって生れる十月ほど前、落語家の父が九州巡業に出かけて、一月あまり家をあけていたことがあり、普通に日を繰ってみて、その留守中につくった子ではないかと、疑えば疑えぬこともない。それか・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  12. ・・・ 世間には僕のような風来坊ばかし居ないからね」 今にも泣き出しそうに瞬たいている彼の眼を覗き込んで、Kは最後の宣告でも下すように、斯う云った。     二 ………… 眼を醒まして見ると、彼は昨夜のまゝのお膳の前に、肌・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  13. ・・・僕一人が世間に住みつく根を失って浮草のように流れている。そしていつもそんな崖の上に立って人の窓ばかりを眺めていなければならない。すっかりこれが僕の運命だ。そんなことが思えて来るのです。――しかし、それよりも僕はこんなことが言いたいんです。つ・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  14. ・・・そんな風で世間を押し通すことは出来ないぞ。とさすがに声はまだ穏やかなり。 しかしあの男のどこに取柄があります。第一、と言いかけるを押し止めて、もういいわ、お前はお前の了簡で嫌うさ。私は私で結交うから、もうこのことは言わぬとしよう。それで・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  15. ・・・生僕と比較すると初から利口であったねエ、二月ばかりも辛棒していたろうか、或日こんな馬鹿気たことは断然止うという動議を提出した、その議論は何も自からこんな思をして隠者になる必要はない自然と戦うよりか寧ろ世間と格闘しようじゃアないか、馬鈴薯より・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  16. ・・・快楽の独立性は必ず物的福利を、そして世間的権力を連想せしめずにはおかぬ。人間がそうした見方を持つにいたればもはや壮年であって、青春ではないのである。 事実として青春の幸福はそこから去ってしまうのだ。如何に多くのイデアリストの憧憬に満ちた・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  17. ・・・赤剥きに剥いて言えば、世間に善意の奨励ほどウソのものは無い。悪意の非難がウソなら、善意の奨励もウソである。真実は意の無いところに在る。若崎は徹底してオダテとモッコには乗りたくないと平常思っている。客のこの言葉を聞くとブルッとするほど厭だった・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  18. 一 官吏、教師、商人としての兆民先生は、必ずしも企及すべからざる者ではない。議員、新聞記者としての兆民先生も、亦世間其匹を見出すことも出来るであろう。唯り文士としての兆民先生其人に至っては、実に明治当代の最も偉大なるものと言わね・・・<幸徳秋水「文士としての兆民先生」青空文庫>
  19. ・・・り名にとどめてあわれ評判の秀才もこれよりぞ無茶となりける 試みに馬から落ちて落馬したの口調にならわば二つ寝て二ツ起きた二日の後俊雄は割前の金届けんと同伴の方へ出向きたるにこれは頂かぬそれでは困ると世間のミエが推っつやっつのあげくしからば・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  20. ・・・でも、私も、引っ込んでばかりはいられなかった。世間に出て友だち仲間に交わりたいような夕方でも来ると、私は太郎と次郎の二人を引き連れて、いつでも腰巾着づきで出かけた。 そのうちに、私は末子をもその宿屋に迎えるようになった。私は額に汗する思・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  21. ・・・四 知識で押して行けば普通道徳が一の方便になるとともに、その根柢に自己の生を愛するという積極的な目標が見えて来る。世間にはこの目標を目障りだと言って見まいとするものもあるが、自分にはどうしても見えると言う方が正直としか思われ・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  22. ・・・ このことは、前に言った高橋さんたちのはたらきとともに、まだ世間につたえられていないのでとくに、人々の傾ちょうをあおいでおきたいと思います。 火災からひなんしたすべての人たちのうち、おそらく少くとも百二十万以上の人は、ようやくのこと・・・<鈴木三重吉「大震火災記」青空文庫>
  23. ・・・わたしの内にいる時なんぞに来ようもんなら、目をほじくり出して遣るわ。世間で彼此云ってわたしの耳に這入らないうちに、あの人が自分で話したから好かったわね。フリイデリイケばかりではないわ。一体なんだってどの女もどの女もあの人にでれ付くのだろう。・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外「一人舞台」青空文庫>
  24. ・・・せったなりのこのおばあさんは、二人のむすこが耕すささやかな畑地のほかに、窓越しに見るものはありませなんだが、おばあさんの窓のガラスは、にじのようなさまざまな色のをはめてあったから、そこからのぞく人間も世間も、普通のものとは異なっていました。・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  25. ・・・ 二人の姉達は、世間並の費用と面倒とで、もう結婚して仕舞っていました。今は唖の末娘が両親の深い心がかりとなっています。世の中の人は、皆、彼女が物を云わないので、ちっとも物に感じない、とでも思っているようでした。彼女の行末のことだの、心配・・・<著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子「唖娘スバー」青空文庫>
  26. ・・・記者というものは柄が悪い、と世間から言われているようですけれども、大谷さんにくらべると、どうしてどうして、正直であっさりして、大谷さんが男爵の御次男なら、記者たちのほうが、公爵の御総領くらいの値打があります。大谷さんは、終戦後は一段と酒量も・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  27. ・・・しかし世間並から言えば、かなりの男振りで、立派に通用するのである。 ポルジイは暇を遣るとき握手して遣ることは出来なかった。それは自分の手が両方共塞がっていたからである。右には紙巻烟草を持っていた。左には鞭を持っていた。鞭を持っていたのは・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  28. ・・・で、そんな世間的のことは考えずに書こう。ロマンチックであろうが、センチメンタルであろうが、新しい思潮に触れていまいが、そんなことは考えずに書こう。こう決心して、それからK氏――小林君の親友のK氏を大塚に訪問し、手紙を二三通借りて来たりして、・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  29. ・・・しかし一般世間に持て囃されるようになったのは昨今の事である。遠い恒星の光が太陽の近くを通過する際に、それが重力の場の影響のために極めてわずか曲るだろうという、誰も思いもかけなかった事実を、彼の理論の必然の結果として鉛筆のさきで割り出し、それ・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  30. ・・・私たちに比べると、世間の人はそれこそしゃあしゃあしたもんや。私なんかそばではらはらするようなことでも平気や」おひろは珍らしく気を吐いた。「いつ見ても何となしぱっとしないようだな」「ぱっとできるようなら、今時分こんな苦労していませんよ・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>