ちかし・い【近しい/親しい】例文一覧 30件

  1. ・・・それが長い航海の間に、いつとなく私と懇意になって、帰朝後も互に一週間とは訪問を絶やした事がないくらい、親しい仲になったのです。「三浦の親は何でも下谷あたりの大地主で、彼が仏蘭西へ渡ると同時に、二人とも前後して歿くなったとか云う事でしたか・・・<芥川竜之介「開化の良人」青空文庫>
  2. (一しょに大学を出た親しい友だちの一人に、ある夏の午後京浜電車の中で遇 この間、社の用でYへ行った時の話だ。向うで宴会を開いて、僕を招待してくれた事がある。何しろYの事だから、床の間には石版摺りの乃木大将の掛物がかかって・・・<芥川竜之介「片恋」青空文庫>
  3. ・・・こちらから快活に持ちかけて、冗談話か何かで先方の気分をやわらがせるというようなタクトは彼には微塵もなかった。親しい間のものが気まずくなったほど気まずいものはない。彼はほとんど悒鬱といってもいいような不愉快な気持ちに沈んで行った。おまけに二人・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  4. ・・・もとより親類ではあるし、親しい間柄だからまず酒という事になる。主人の親父とは頃合いの飲み相手だ、薊は二つめにさされた杯を抑え、「時に今日上がったのは、少し願いがあって来たわけじゃから、あんまり酔わねいうちに話してしまうべい。おッ母さん、・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  5. ・・・沼南と私とは親しい知り合いでなかったにしろ、沼南夫妻の属するU氏の教会と私とは何の交渉がなかったにしろ、良心が働いたなら神の名を以てする罪の裁きを受ける日にノメノメ恥を包んで私の前へは出て来られないはずであるのを、サモ天地に恥じない公明正大・・・<内田魯庵「三十年前の島田沼南」青空文庫>
  6. ・・・ その上に頗る多食家であって、親しい遠慮のない友達が来ると水菓子だの餅菓子だのと三種も四種も山盛りに積んだのを列べて、お客はそっちのけで片端からムシャムシャと間断なしに頬張りながら話をした。殊に蜜柑と樽柿が好物で、見る間に皮や種子を山の・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  7. ・・・ 旅人は、子供の時分、釣りにいって、疲れた足を引きずりながら帰ったとき、また学校の帰りにけんかをして、先方はおおぜいだったとき、そんなときでさえ、あちらに、親しい松の木が見えると、もう家に着いたような気がして、急に勇気が百倍したことなど・・・<小川未明「曠野」青空文庫>
  8. ・・・地上に住む人間が、最も親しい土や木や、水のほんとうの色を忘れ、匂いを忘れ、特質を忘れたら、彼等は、もはや何処にも、棲家を持たないといっていゝ。なぜなら、彼等は自然に対する、否、地に対する反逆者であるからです。 言い換えれば、地と人間の親・・・<小川未明「草木の暗示から」青空文庫>
  9. ・・・私ゃまたお上さんがお近しいから、そんな縁引きで今度親方のとこへも来なすったんだと思いまして……いえね、金さんの方じゃ知んなさらねえようだが、私ゃ以前あの人の家のじき近所に小僧をしていて、あの人のことはよく知ってますのさ」「そう、いつごろ・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  10. ・・・してみれば、文壇でもっとも私に近しい人といえば、武田さんを措いて外にない。いわば私の兄貴分の作家である。そしてまた、武田さんは私の「夫婦善哉」という小説を、文芸推薦の選衡委員会で極力推薦してくれたことは、速記に明らかである。当時東京朝日新聞・・・<織田作之助「武田麟太郎追悼」青空文庫>
  11. ・・・ いったい今度の会は、最初から出版記念とか何とかいった文壇的なものにするということが主意ではなかったので、ほんの彼の親しい友人だけが寄って、とにかくに彼のこのたびの労作に対して祝意を表そうではないかという話からできたものなのだ。それがい・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  12. ・・・ 彼の視野のなかで消散したり凝聚したりしていた風景は、ある瞬間それが実に親しい風景だったかのように、またある瞬間は全く未知の風景のように見えはじめる。そしてある瞬間が過ぎた。――喬にはもう、どこまでが彼の想念であり、どこからが深夜の町で・・・<梶井基次郎「ある心の風景」青空文庫>
  13. ・・・そして私達はその夜から親しい間柄になったのです。 しばらくして私達は再び私の腰かけていた漁船のともへ返りました。そして、「ほんとうにいったい何をしていたんです」 というようなことから、K君はぼつぼつそのことを説き明かしてくれまし・・・<梶井基次郎「Kの昇天」青空文庫>
  14. ・・・この身に親しいインティメイトな感じが倫理学への愛と同情と研究の恒心とを保証するものなのである。     二 倫理学の入門 倫理学の祖といわれるソクラテス以来最近のシェーラーやハルトマンらの現象学派の倫理学にいたるまで、人間の・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  15. ・・・ 大噐晩成先生はこれだけの談を親しい友人に告げた。病気はすべて治った。が、再び学窓にその人は見われなかった。山間水涯に姓名を埋めて、平凡人となり了するつもりに料簡をつけたのであろう。或人は某地にその人が日に焦けきったただの農夫と・・・<幸田露伴「観画談」青空文庫>
  16. ・・・彼女の周囲にあった親しい人達は、一人減り、二人減り、長年小山に出入してお家大事と勤めて呉れたような大番頭の二人までも早やこの世に居なかった。彼女は孤独で震えるように成ったばかりでなく、もう長いこと自分の身体に異状のあることをも感じていた。彼・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  17. ・・・この山の上へ来て二度七月をする高瀬には、学校の窓から見える谷や岡が余程親しいものと成って来た。その田圃側は、高瀬が行っては草を藉き、土の臭気を嗅ぎ、百姓の仕事を眺め、畠の中で吸う嬰児の乳の音を聞いたりなどして、暇さえあれば歩き廻るのを楽みと・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  18. ・・・丘の上の一つ家の黄昏に、こんな思いも設けぬ女の人がのこりと現れて、さも親しい仲のように対してくる。かつて見も知らねば、どこの誰という見当もつかぬ。自分はただもじもじと帯上を畳んでいたが、やっと、「おばさんもみんな留守なんだそうですね」と・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  19. ・・・母にとって、娘と云うものは、息子よりずっと自分に親しい一部分です。娘の欠点は、自分の恥の源ともなります。父親のバニカンタは、却って他の娘達より深くスバーを愛しましたが、母親は、自分の体についた汚点として、厭な気持で彼女を見るのでした。 ・・・<著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子「唖娘スバー」青空文庫>
  20. ・・・ どんなに親しい間柄とは言っても、私とその嫁とは他人なのだし、私だって、まだよぼよぼの老人というわけではなし、まして相手は若い美人で、しかも亭主が出征中に、夜おそくのこのこ訪ねて行って、そうして二人きりで炉傍で話をするというのは、普通な・・・<太宰治「嘘」青空文庫>
  21. ・・・ それが、夫と交した最後の夫婦らしい親しい会話でございました。 雨がやんで、夫は逃げるようにそそくさと出かけ、それから三日後に、あの諏訪湖心中の記事が新聞に小さく出ました。 それから、諏訪の宿から出した夫の手紙も私は、受取りまし・・・<太宰治「おさん」青空文庫>
  22. ・・・ 折々極親しい友達を呼んで来る。内証の宴会をする。それがまた愉快である。どうかすると盛んな酒盛になる。ドリスが色々な思附きをして興を添えてくれる。ドリスが端倪すべからず、涸渇することのない生活の喜びを持っているのが、こんな時にも発揮せら・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  23.  私に親しいある老科学者がある日私に次のようなことを語って聞かせた。「科学者になるには『あたま』がよくなくてはいけない」これは普通世人の口にする一つの命題である。これはある意味ではほんとうだと思われる。しかし、一方でまた・・・<寺田寅彦「科学者とあたま」青空文庫>
  24. ・・・馬鹿馬鹿しいと思うにつけて、たとい親しい間柄とは云え、用もないのに早朝から人の家へ飛び込んだのが手持無沙汰に感ぜらるる。「どうして、こんなに早く、――何か用事でも出来たんですか」と御母さんが真面目に聞く。どう答えて宜いか分らん。嘘をつく・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  25. ・・・今の新しい僕は、むしろ親しい友人との集会なども、進んで求めるようにさえ明るくなってる。来訪客と話すことも、昔のように苦しくなく、時に却って歓迎するほどでさえもある。ニイチェは読書を「休息」だと云ったが、今の僕にとって、交際はたしかに一つの「・・・<萩原朔太郎「僕の孤独癖について」青空文庫>
  26. ・・・ 一晩じゅう、どんなに私が体を火照らせ、神経を鋭敏に働かせ通したか、あけ方の雀が昨日と同じく何事もなかった朝にさえずり出したその一声を、どんな歓喜をもって耳にしたか、私のひとみほど近しい者だって同感することは出来まい。七時から、十二時ま・・・<宮本百合子「田舎風なヒューモレスク」青空文庫>
  27. ・・・それは親しい友達の少いのでわかる。誰でも立派な侍として尊敬はする。しかしたやすく近づこうと試みるものがない。まれに物ずきに近づこうと試みるものがあっても、しばらくするうちに根気が続かなくなって遠ざかってしまう。まだ猪之助といって、前髪のあっ・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  28. ・・・本当にこれらの人々にもなつかしい親もあろう、可愛らしい妻子もあろう、親しい交わりの友もあろう、身を任せた主君もあろう、それであッてこのありさま,刃の串につんざかれ、矢玉の雨に砕かれて異域の鬼となッてしまッた口惜しさはどれほどだろうか。死んで・・・<山田美妙「武蔵野」青空文庫>
  29. ・・・丘を下っていくものが半数で、栖方と親しい後の半数の残った者の夕食となったが、忍び足の憲兵はまだ垣の外を廻っていた。酒が出て座がくつろぎかかったころ、栖方は梶に、「この人はいつかお話した伊豆さんです。僕の一番お世話になっている人です。」・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  30. ・・・私は自分に親しい者たちの心の内に同じような穢ないものがある事を想像するのはとてもたまらない。それと同じく他の人も私の心の暗い影を想像するのは非常に不愉快だろうと思います。私はどうしても心を清浄にしたい。たとえそのために人間性質のある点に関す・・・<和辻哲郎「ある思想家の手紙」青空文庫>