・・・ 次の日遊びに来た女の子にきいて見ると、「会津へ行くからなのよ。と云う。 そうして見ると、銀行仲間を順繰りに呼んでは別れの騒をやって居るのと分るが、そんならそうで、ああ馬鹿放題な事をしずともと思われる。 怒鳴らな・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ 十五分もかからないで上ると私共の炬燵に入って、会津の方の女の話をした。非常な働き者で、東京の娘達の様に箸より重いものは持てない様には必(してして居ないと殊更、私にあてつけでもする様な口調で云った。先生と云う臭味がこんな時プーンとする。・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・さて文吉に合図を教えて客僧に面会して見ると、似も寄らぬ人であった。ようようその場を取り繕って寺を出たが、皆忌々しがる中に、宇平は殊に落胆した。 一行は福田、小川等に礼を言って長崎を立って、大村に五日いて佐賀へ出た。この時九郎右衛門が足痛・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・初め操縦士と合図しといて落下傘で飛び降りてから、その後の空虚の飛行機へ光線をあてたのです。うまくゆきましたよ。操縦士と夕べは握手して、ウィスキイを二人で飲みました。愉快でしたよそのときは。」 自信に満ちた栖方の笑顔は、日常眼にする群衆の・・・ 横光利一 「微笑」
・・・もちろん合図などをするのではない。自分がパッと飛び出す時に同時に語り手も使い手も出てくれるのである。左右に気を兼ねるようであればこの気合いが出ない。思い切ってパッと出てしまうのである。ところでこの気合いは弾き出しの時に限らない。あらゆる瞬間・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫