・・・「御ひょろたかアしまア、まこものーなアかでエ あやーめさくとはー しおらしーい」 歌も古いし人も古いけれども、その歌だけは新しい力のある、いきな声である。川の面をすべって線路を越えて海のあっちの方ーへとんで行ってしまった。 ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ 一刻千金も高ならぬその有様をまともに見る広間はあけはなされてしきつめられた繧繝べりの上をはすにあやどる女君達の小机帳は常にもまして美くしい。 正坐にかまえて都人の華奢な風を偲ばせて居るのは殿、その下坐に弟君、かかり人までこの宴にも・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ 心からわしが御事を偉い御方じゃと思うたらゆずっても進ぜようがのう、 あやにくわしはよう思わなんだ。 それ故にわしはならぬと申すのじゃ、許さぬと申すのじゃ。 わしは皇帝じゃ御事はわしの命令には服さねばならぬ。法 貴方は・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・いわゆる五・一五事件当時から山岸敬明と妻君のあや子という人の間には、新聞口調でいえば、灼熱のロマンスがひめられていたそうです。このあやさんが賀陽氏のいとこなのだそうです。 だいたい生活能力のあたえられずに生きてきた皇族の今日の生活は、実・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・その夜は詩人は外にも出ず書きもせず黒ずくめの着物を着た母のわきで祖母を対手にかるい調子で世間話をするのをききながら時々はりのある声で笑ったり時々母の話にあやをつけたりして床に入ってしまいました。翌朝まだ日の出ない内に詩人の部屋からは燈の光が・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・あたまのこまっかいひだの間なんかにはキットおばあさま、おかあさま、ばあやなんかの思い出がこもってる様でネエ」 こんな事も云った。「ネ、お敬ちゃん、お染とお七と――その気持の出る様なのを作って見ない」 私がものずきにこんな事を云い・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・新年言志みことのりあやにかしこみかしこみてただしき心おこせ世の人廿七日の怪事件を聞きていざさらば都にのぼり九重の宮居守らん老が身なれど野老 こういう手紙が大晦日の晩についた。野老は小生の老父で、安・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫