・・・ 納戸へ通口らしい、浅間な柱に、肌襦袢ばかりを着た、胡麻塩頭の亭主が、売溜の銭箱の蓋を圧えざまに、仰向けに凭れて、あんぐりと口を開けた。 瓜畑を見透しの縁――そこが座敷――に足を投出して、腹這いになった男が一人、黄色な団扇で、耳も頭・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・若い男が倒れていてな、……川向うの新地帰りで、――小母さんもちょっと見知っている、ちとたりないほどの色男なんだ――それが……医師も駆附けて、身体を検べると、あんぐり開けた、口一杯に、紅絹の糠袋……」「…………」「糠袋を頬張って、それ・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・ 高い木のてっぺんで百舌鳥が鳴いているのを見ると、六蔵は口をあんぐりあけて、じっとながめています。そして百舌鳥の飛び立ってゆくあとを茫然と見送るさまは、すこぶる妙で、この子供には空を自由に飛ぶ鳥がよほど不思議らしく思われました。・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
出典:青空文庫