・・・それを安全にやるために、われ/\の前衛を牢獄につないで置くのだ、――今になって見ると、お君にはそのことがよく分った。メリヤス工場でもその手をやっていたのだ。今夫が帰って来てくれたら! 職業紹介所の帰りだった。お君はフト電信柱に、「共産党・・・ 小林多喜二 「父帰る」
・・・小露へエジソン氏の労を煩わせば姉さんにしかられまするは初手の口青皇令を司どれば厭でも開く鉢の梅殺生禁断の制礼がかえって漁者の惑いを募らせ曳く網のたび重なれば阿漕浦に真珠を獲て言うなお前言うまいあなたの安全器を据えつけ発火の予防も施しありしに・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・中には、安全と思うところへ早く家財なぞをもち出して一安神していると、間もなく、ふいに思わぬところから火の手がせまって来たりして、せっかくもち出したものもそのままほうってにげ出す間もなく、こんどは、ぎゃくにまっ向うから火の子がふりかぶさって来・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・彼は、この戦争は永くつづきます、軍の方針としては、内地から全部兵を引き上げさせて満洲に移し、満洲に於いて決戦を行うという事になっているらしいです、だから私は女房を連れて満洲に疎開します、満洲は当分最も安全らしいです、勤め口はいくらでもあるよ・・・ 太宰治 「女神」
・・・ 主人は二つの品を丁寧に新聞紙で包んでくれて、そしてその安全な持ち方までちゃんと教えてくれた。私はすっかり弱ってしまって、丁度悪戯をしてつかまった子供のような意気地のない心持になって、主人の云うがままになって引き下がる外はなかったのであ・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・自分は何と云うてよいか判らなかった。黯然として吾も黙した。また汽車が来た。色々議論もあるようであるが日本の音楽も今のままでは到底見込がないそうだ。国が箱庭的であるからか音楽まで箱庭的である。一度音楽学校の音楽室で琴の弾奏を聞いたが遠くで琴が・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・雷同し謳歌して行くより外には安全なる処世の道はないように考えられている。この場合わが身一つの外に、三界の首枷というもののないことは、誠にこの上もない幸福だと思わなければならない。 ○ わたくしの身にとって妻帯の・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・そして広大なるこの別天地の幽邃なる光線と暗然たる色彩と冷静なる空気とに何か知ら心の奥深く、騒しい他の場所には決して味われぬ或る感情を誘い出される時、この霊廟の来歴を説明する僧侶のあたかも読経するような低い無表情の声を聞け。――昔は十万石以上・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・毎朝髭を剃るんでね、安全髪剃を革砥へかけて磨ぐのだよ。今でもやってる。嘘だと思うなら来て御覧」 看護婦はただへええと云った。だんだん聞いて見ると、○○さんと云う患者は、ひどくその革砥の音を気にして、あれは何の音だ何の音だと看護婦に質問し・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・刃のない安全剃刀。ブリキのように固くなったオバーオールが、三着。「畜生! どこへ俺は行こうってんだ」 樫の盆見たいな顔を持った、セコンドメイトは、私と並んで、少し後れようと試みながら歩いていた。「ヘッ、俺より一足だって先にゃ行か・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
出典:青空文庫