・・・一 余死せば朝日新聞社より多少の涙金渡るべし一 此金を受取りたる時は年齢に拘らず平均に六人の家族に頭割りにすべし例せば社より六百円渡りたる時は頭割にして一人の所得百円となる計算也一 此分配法ニ異議ありとも変更を許さず右之通・・・ 二葉亭四迷 「遺言状・遺族善後策」
・・・ 私は二十世紀の文明は皆な無意義になるんじゃないかと思う。何と云っても今はまだレフレクションの影響を免がれていない。十九世紀で暴威を逞くした思索の奴隷になっていたんで、それを弥々脱却する機会に近づいているらしく見える。新理想とか何とか云・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・何もかもこの通りだ。意義もない、幸福もない、苦痛もない、慈愛もない、憎悪もない。死。阿房ものめが。好いわ。今この世の暇を取らせる事じゃから、たった一度本当の生活というものを貴ばねばならぬ事を、其方に教えて遣わそう。あっちに行って黙って立・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・後世の歌人といえども、誠を詠め、ありのままを写せ、と空論はすれどその作るところのかえっていつわりのたくみを脱するあたわざるは誠、ありのまま、の意義を誤解せるによる。西行のごときは幾多の新材料を容れたるところあるいはこの意義を解する者に似たれ・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・婦人たちはみんなひどく激昂していましたが何分相手が異教の論難者でしたので卑怯に思われない為に誰も異議を述べませんでした。シカゴの技師ははんけちで叮寧に口を拭ってから又云いました。「なるほど実にビジテリアン諸氏の動物に対する同情は大きなも・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・豚は全く異議もなく、はあはあ頬をふくらせて、ぐたっぐたっと歩き出す。前や横を生徒たちの、二本ずつの黒い足が夢のように動いていた。 俄かにカッと明るくなった。外では雪に日が照って豚はまぶしさに眼を細くし、やっぱりぐたぐた歩いて行った。・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ この作品が、日本の今日の映画製作の水準において高いものであることは誰しも異議ないところであろうと思う。一般に好評であるのは当然である。けれども、この次の作品に期待される発展のために希望するところが全くない訳ではない。 溝口健二は、・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・ 今日の心情は、その今日の性格において愛と死の問題をわが生の意義の上に悩み、感じ、知りたいと思っているのだと思う。この小説が後半まで書き進められたとき、作者の心魂に今日のその顔が迫ることはなかったのだろうか。愛と死の現実には、歴史が響き・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・が一つの記念碑的な作品であることに異議ない。七年間の労作に堪ゆる人間が、枯淡であろうとも思わないし、無計画であるとも思わない。同じ十月の『文芸』に中村光夫氏が短い藤村研究「藤村氏の文学」を書いていて、中に「氏は自己の精神の最も大切な部分を他・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・「どうだね、一つここんところの壁へ何かかけた方がいいと思わないか?」「異議なし」「町ソヴェトの倉庫んなかに、元絹問屋の客間にあったっていう、でっかい絵があるぜ」「ふーむ。どんな絵だい?」「なんでも黒い髪をたらした女が踊っ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫