・・・何も彼も餓鬼等の中がいっちええわ、なあ、お前様。 お前様みたいな方は、若いうちも年取りなっても同じなんべえけど、己等みたいなものは、婆になったらはあ、もうこれだ、これだ。と変な笑い方をして手を左右に振った。 けれ共、この婆に・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ なりは鳥共の中でいっち小そうてはあったが色と声の美くしさはお造りなされた神さえ御驚きなされたと申すほどでの、神からも人間からも恵みは大したものであった。 毎日毎日太陽と共に歌い出て月に挨拶致いてからねぐらにもどったと申す事じゃ。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・君なんぞの理想と一致するだろうと思うが、どうかねえ。」 木村は馬鹿々々しいと思って、一寸顔を蹙めたくなったのをこらえている。 そのうち停留場に来た。場末の常で、朝出て晩に帰れば、丁度満員の車にばかり乗るようになるのである。二人は赤い・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・もしも彼らが感覚派なるものに向って、感覚派も根本的生活活動から感覚的であらざるが故に、感覚派の感覚も所詮外面的糊塗であると云うがごとき者あらば、その者は生活の感覚化と文学的感覚表徴とを一致させねばやまない無批判者にちがいない。もしも人々に健・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・そこでこの妃のその後の運命を語る段になると、話は俄然『熊野の本地』に一致してくる。父王の千人の妃たちの憎悪と迫害がこの新王の美しい妃に集まり、妃を孤立させるために相人を利用して新王を遠い地方へ送り出してしまう。守り手のない妃のところへは武士・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫