・・・ 司会者の何か特別な意図がふくまれていたのであろうか、 祝宴の主人公であるその画家の坐っている中央のテーブルは、純然の家族席としてまとめられている。夫人、成人して若い妻となっている令嬢、その良人その他幼い洋服姿の男の子、或は先夫人か・・・ 宮本百合子 「或る画家の祝宴」
・・・監督の意図では沙漠というものの持つ広大な自然力と小さい人間との対照、並に小さい躯に盛られている人間の自然に対する闘争力を描いて、中尉ルドヴィッチの人間的再出発の説明にあてようとしたのであったかも知れない。残念ながらこの意図は完全に失敗してい・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・現在では、すべての封建的な意図が、その表現はかならず日本の民主化と復興のため、といういいまわしをもちはじめた。 最近あらわれた元看守のファシストである暗殺者さえ、属する団体は民主化同盟という名をもっている。もういっそう手のこんでいる政治・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・私は、今日女性の心の中には、新たに目覚めた人としての燃えるような意図と共に、過去数百年の長い長い間、総ての生活を受動的、隷属的に営んで、人及び自分の運命に対しては、何等能動的な権威を持ち得なかった時代の無智、無反省、無責任の遺物が潜んでいる・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・戦争に反対し、軍国主義の非人間的だった時期の日本の悲劇を描くとされているのであるけれども、榕子という女性を描いている作者のその意図について疑いをもたされる人は少くないだろうと思う。わたくしとはいわず、あたくしと、はやりどおりにいうこの女性は・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ちょいと首を傾けたが、宛名には相違がないので、とにかく封を切った。手紙を引き出して披き掛けて、三右衛門は驚いた。中は白紙である。 はっと思ったとたんに、頭を強く打たれた。又驚く間もなく、白紙の上に血がたらたらと落ちた。背後から一刀浴せら・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・の通りこの上もない出世をして、重畳の幸福と人の羨むにも似ず、何故か始終浮立ぬようにおくらし成るのに不審を打ものさえ多く、それのみか、御寵愛を重ねられる殿にさえろくろく笑顔をお作りなさるのを見上た人もないとか、鬱陶しそうにおもてなしなさるは、・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・そこに現われたのは写実によって美を生かそうとする意図ではなく、美しい色と線との諧和のために、自然の内からある色と線とを抽出しようとする注意深い選択の努力である。現実の風景を描いた画すらも、画家の直接の印象が現われているという気はしない。画家・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・それはこの神々を苦しむ神として示そうとする意図を作者が持っていることの明らかな証拠である。そういう意図が、日本の民間説話である長者伝説を材料として、非常に力強く表現せられているところを見ると、苦しむ神の観念が日本の民衆のなかから湧き出て来た・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・伝説では、殉死の習慣を廃するために埴輪人形を立て始めたということになっているが、その真偽はわからないにしても、とにかく殉死と同じように、葬られる死者を慰めようとする意図に基づいたものであることは、間違いのないところであろう。そういう埴輪の形・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫