・・・どうもそんなしんこ細工のようなことをするというのは、この世界がまだなめくじでできていたころの遺風だ。一寸視察に出よう。事によると禁止をしなければなるまい。」 そこでネネムは、部下の検事を随えて、今日もまちへ出ました。そして検事の案内で、・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・政府は重要産業の補償をうち切って、百万人の失業者を出すそうだが、その百万人の人々とその家族、その主婦たちにとって、この威風にみちた秋田の稲田のことしのみのりは、どういうものになって現れるのだろう。 政府がきめる土地調整法案で地主は必ずし・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・世俗的な威風に満たず時に逸脱しその逸脱の本質は「元の枝へ」と「仮装人物」が「新生」と異るように異るものであった。藤村はおどろくばかり計画性にとんだ作家で、その自己に凝結する力は製作の態度から日常生活の諸相へまで滲み透っていた。藤村の生きかた・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・文化関係で、ラジオの民主化のための放送委員会、軍国主義の出版統制の遺風を民主化するための用紙割当委員会、出版文化委員会、教育の民主化、成人教育のための社会教育委員会、そのほか一九四六年から次の年の春までぐらいにつくられた委員会の多くは、正直・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・数台の飛行機がメーデー祝祭の分列式を行っている―― モスクワのあらゆる街々から赤い広場へ向って行進して来たデモが、広場へ入る二つの門の外で赤旗の海となった時、広場の中では、威風堂々の閲兵式の殿りとして、ソヴェト共産党青年団、中華民国共産・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・ 考えてみれば、女性の問題といえば先ずその性にばかり重点をおく風習は、一つの封建遺風ではなかろうか。 婦人参政に関しても、道義というものは当然あるわけだ。それがすたれ、或は穢されるということのあり得る事実も明白である。 進歩党は・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・よく響く声のたちで、眼や額の皮膚は清げなそのひとが、どういうわけか小柄な体にすこしあかっぽい大髯をつけて、年のわからないような威風あたりを払っている様子にはユーモアがあった。拘置所では世間並に髪を生やしておくのにさえ蓄髪願という書類を出さな・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・一人でさえ威風堂々たる先生たちが、二列に並んだ塗テーブルに向いあってぞっくりとかけて居られ、その正面には別に横長テーブルがはなれて置かれていた。そこのテーブルは校長先生の席であった。子供たちは校長先生の白く長く垂れている髯と、うすいあばたの・・・ 宮本百合子 「藤棚」
・・・「婦人をして柔和忍辱の此頂上にまで至らしめたるは上古蛮勇時代の遺風、殊に女大学の教訓その頂上に達したるの結果に外ならず」夫婦の生活で夫が妻を扶養するのは当然の義務だのに、妻たるものがわずかの美衣美食に飼い馴らされて人としての権利さえ自分から・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ ヨーロッパで、自然主義の持った役割は非常に大きく、過去のヨーロッパ文化がその宗教的な伝統、騎士道の遺風、植民地政策の結果から生じた女性尊重と精神的愛の誇張から生まれている男女の性生活の偽善を打ち破る力があった。文芸思潮として日本へ入っ・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫