・・・偶然の個別現象に興味があり、また論文を発表したある若い学者がちょうどその晩よそへ遊びに行ってそこで合奏をやっていた事実に意義を認めるのであるが、それを事実有りのまま書いたのでは、ジャーナリズムの鉄則に違反するものと見える。こういう事実を初め・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・実例としては明治四十三年八月に起った水害の後、東京の市民は幾十年を過ぎた今日に至るまで、一度も隅田川の水が上野下谷の町々まで汎濫して来たような異変を知らない。その代り河水はいつも濁って澄むことなく、時には臭気を放つことさえあるようになったの・・・ 永井荷風 「水のながれ」
・・・「とにかく遊ぶのがすでに条件違反だ。お前はとてもお静さんをもらうわけにゆかないよ」「困るなあ」 重吉はほんとうに困ったような顔をして、いろいろ泣きついた。自分は頑として破談を主張したが、最後に、それならば、彼が女を迎えるまでの間・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・犯罪統計のうち破廉恥罪以外で投獄された人民の第一位を、新聞取締法違反によって告発された執筆者たちが占めていたのである。 二 日本の新聞の歴史は、こうして忽ち、反動的な強権との衝突の歴史となったのであるが、大・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・十二月二十四日開催の第七十三議会に先立つこと九日の十五日に日本無産党・全評を中心として全国数百人の治維法違反容疑者の検挙が行われ、議会に席を有する加藤勘十、黒田寿男氏等は何日も経ず起訴された。被検挙者中には、大森義太郎、向坂逸郎、猪俣津南雄・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・一九五〇年の十月、日本全国で二十代の男女労働者の大量が、「政治的思想的立場を理由にして、つまり国の憲法と労働関係法規とに違反して首切られました」、二十代の全国の学生は、同じく「政治的思想的立場を理由にして」追放されようとしている教授を擁護し・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・「落穂ひろい」小説「中農の伜」「違反」「雑草」など、作品としてはいろいろの未熟さその他の問題をふくんでいるとしても、作品が生活から遊離していない点でやはり読者の心をひくものをもっていると思う。 終りにのぞみ、何心なく『文芸街』の頁を繰っ・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・「結論的に私が申しあげたいのはわれわれを被告としたあの検事諸君こそまさに公務員法違反であり、職権乱用の非国民である。私はそう思う。なお弁護人諸君に一言申しあげたい。僕は弁護人諸君はただ単に弁護人だけにとどまらず、本当に日本の民主主義をまもり・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 思いがけない異変に驚く間もあらばこそ、鋭い刀を命の髄まで打ち込まれ打ち込まれした森の古老達は、悲しそうに頭を振り動かし、永年の睦まじかった友達に最後の一瞥を与えながら次から、次へと伐られてしまう。地響を立てて横たわる古い、苔や寄生木の・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・で、経済違反の弁護によって成り上ってゆく検事出身の弁護士とその家庭、現代風にもつれる男女の心理などを扱っている。小山いと子が、中間小説や風俗小説の刺戟的な方法に学んでグロテスクな誇張におちいらないで、むしろ常識の善良さで、この戦後的題材の小・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
出典:青空文庫