・・・ザックが、仰々しい貴族まがいの身なりに伊達者ぶって、例のトルコ玉を鏤めた杖をつきつつ、ダブランテス公夫人やカストリィ公夫人の後から得意気にオペラの棧敷へなど現れた光景は、今日の我々の想像においても相当色濃い諷刺画である。ましてや同時代人の目・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ ところが事件の十五日夜アリバイがはっきりしているために「やや焦燥の色濃い東京地検堀検事正、馬場次席検事は」「教唆罪もあり得る」と語っている。検事のこの言葉は「あり得る」あらゆる罪名をもって飯田、山本両氏を犯人にしようとしているような感・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・特に封建性のつよい日本において或る時期ブルジョア・インテリゲンツィアの婦人作家が、色恋を描かず、男の美を作品の中に描き得ないのは、まことに当然である。 性的アドーレーションは人的アドーレーションなしに不可能であるから。 野上彌生子の・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・ましてや祖母の昔話の中では正確な年代も消えて、僅にのこった色濃いところどころが、思い出話のよすがとなっているにすぎなかったのである。〔一九三九年七月〕 宮本百合子 「明治のランプ」
・・・進歩的な若い文学者などが、新しい生活への翹望とその実現の一端として、自分たちの恋愛を主張し、封建的な男女の色恋の観念を破って、人間的な立場と文化の新生面の展開の立場で、男女の人格的結合からの恋愛と結婚とをいったのであった。 ヨーロッパで・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫