・・・するとちょうざめがううと一つうなりました。タネリはどきっとしてはねあがろうとしたくらいです。「うう、お前かい、今度の下男は。おれはいま病気でね、どうも苦しくていけないんだ。 宮沢賢治 「サガレンと八月」
・・・ やまのいわやで、 熊が火をたき、 あまりけむくて、 ほらを逃げ出す。ゴゴンゴー、 田螺はのろのろ。 うう、田螺はのろのろ。 田螺のしゃっぽは、 羅紗の上等、ゴゴンゴーゴー」 本線のシグナルはせっ・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・「うん年老りの番兵だ。ううはははは。」「ふふふ青白の番兵だ。」「ううははは、青じろ番兵だ。」「こんどおれ行って見べが。」「行ってみろ、大丈夫だ。」「喰っつがないが。」「うんにゃ、大丈夫だ。」 そこでまた一疋が・・・ 宮沢賢治 「鹿踊りのはじまり」
・・・鍵穴の眼玉はたちまちなくなり、犬どもはううとうなってしばらく室の中をくるくる廻っていましたが、また一声「わん。」と高く吠えて、いきなり次の扉に飛びつきました。戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。 その扉の・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・ひどいや。ひどいや。うう、くやしい。ねずみ捕りさん。あんまりだ。」と言いながら、はりがねをかじるやら、くるくるまわるやら、地だんだふむやら、わめくやら、泣くやら、それはそれは大さわぎです。それでも、償ってください、償ってくださいは、もう言う・・・ 宮沢賢治 「ツェねずみ」
・・・夜中になって大学士は「うう寒い」と云いながらばたりとはね起きて見たらもうたきぎが燃え尽きてただのおきだけになっていた。学士はいそいでたきぎを入れる。火は赤く愉快に燃え出し大学士は胸をひろげてつくづくと・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・つづいて、クラリネットを片手に下げ、縞の羽織の裾をまくって「うう寒い」 ひょいと窓へ吸い込まれて仕舞った。――然し音楽は消えたのではない。赤い爪革、メリンス羽織、休み日の娘が歌う色彩の音楽は一際高く青空の下に放散されて居る。――・・・ 宮本百合子 「町の展望」
出典:青空文庫