・・・ほれ、こりゃ、破ると、中が真黒けで、うじゃうじゃと蛆のような筋のある(狐の睾丸じゃがいの。」「旦那、眉毛に唾なとつけっしゃれい。」「えろう、女狐に魅まれたなあ。」「これ、この合羽占地茸はな、野郎の鼻毛が伸びたのじゃぞいな。」・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・という言葉に辟易した。うじゃうじゃと、虫が背中を這うようだった。「ほんまに私は不幸な女やと思いますわ」 朝の陽が蒼黝い女の皮膚に映えて、鼻の両脇の脂肪を温めていた。 ちらとそれを見た途端、なぜだか私はむしろ女があわれに思えた。か・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・ややあって、ふと、鮒子の一隊が水の色とまぎれたと思うと、底の方を大きな黒いのがうじゃうじゃと通る。「大きなのもいるんですね。あ、あそこに」と指すと、「どこに」と藤さんが聞く。しかしそれは写っている影であった。鮒子はやっぱり小さく上の・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・表面は、どうにか気取って正直の身振りを示しながらも、その底には卑屈な妥協の汚い虫が、うじゃうじゃ住んでいるのが自分にもよく判って、やりきれない作品であったのだ。それに、あの、甘ったれた、女の描写。わあと叫んで、そこらをくるくると走り狂いたい・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・そう覚悟をきめますと、それまで内心、うじゃうじゃ悩んでいたもの、すべてが消散して、苦しさも、わびしさも、遠くへ去って、私は、家の仕事のかたわら、洋裁の稽古にはげみ、少しずつご近所の子供さんの洋服の注文なぞも引き受けてみるようになって、将来の・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・見たまえ、学士の来た方の泥の岸はまるでいちめんうじゃうじゃの雷竜どもなのだ。まっ黒なほど居ったのだ。長い頸を天に延ばすやつ頸をゆっくり上下に振るやつ急いで水にかけ込むやつ実にまるでうじゃうじゃだった。「も・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫