・・・しかし、仕事のことを考えると、そうも言っておれないので、結局悪いと思い乍ら、毎日、しかも日によっては二回も三回も打つようになる。その代り、葡萄糖やヴィタミン剤も欠かさず打って、辛うじてヒロポン濫用の悪影響を緩和している。 新吉は左の腕を・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・味方はワッワッと鬨を作って、倒ける、射つ、という真最中。俺も森を畑へ駈出して慥か二三発も撃たかと思う頃、忽ちワッという鬨の声が一段高く聞えて、皆一斉に走出す、皆走出す中で、俺はソノ……旧の処に居る。ハテなと思た。それよりも更と不思議なは、忽・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ふと私は、一度脈をはかってやろうと思って病人の手を取ってみましたが、脈は何処に打って居るやら、遙か奥の方に打つか打たぬかと思う程で、手の指先一寸程はイヤに冷たく成って居ます。呼吸はと見ると三十位しか無い「はて、おかしいぞ」と思いましたが、瞳・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・港の入口の暗礁へ一隻の駆逐艦が打つかって沈んでしまったのだ。鉄工所の人は小さなランチヘ波の凌ぎに長い竹竿を用意して荒天のなかを救助に向かった。しかし現場へ行って見ても小さなランチは波に揉まれるばかりで結局かえって邪魔をしに行ったようなことに・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・ある夕、雨降り風起ちて磯打つ波音もやや荒きに、独りを好みて言葉すくなき教師もさすがにもの淋しく、二階なる一室を下りて主人夫婦が足投げだして涼みいし縁先に来たりぬ。夫婦は燈つけんともせず薄暗き中に団扇もて蚊やりつつ語れり、教師を見て、珍らしや・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・姦淫したる女を石にて打つにたうる無垢の人ありや? イエスがこの問いを提出するまで誰も自分の良心に対してかく問い得なかった。財の私的所有ならびに商業は倫理的に正しきものなりや? マルクスが問うてみせるまで、常人はそれほどにも自分らの禍福の根因・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・それが吾々を打つ。 メリメは、水のように冷たい。そして、カッチリ纒りすぎる位いまとまっている。常に原始的な切ったり、はったり、殺し合いをやったりする、ロマンティックなことばかりを書いている。どんなことでも、かまわずにさっさと書いて行く、・・・ 黒島伝治 「愛読した本と作家から」
・・・それは何を撃つのか、目標は見えなかった。やたらに、砲先の向いた方へ弾丸をぶっぱなしているのであった。「副官、中隊を引き上げるように命令してくれ!」 大隊長は副官を呼んだ。「それから、機関銃隊攻撃用意!」 村に攻めこんだ歩兵は・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 撃つんだな。」 彼は立ったまゝ銃をかまえた。その時、橇の上から轟然たるピストルのひゞきが起った。彼は、引金を握りしめた。が引金は軽く、すかくらって辷ってきた。安全装置を直すのを忘れていたのだ。「どうした、どうした?」 ピストル・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・網は御客自身打つ人もあるけれども先ずは網打が打って魚を獲るのです。といって魚を獲って活計を立てる漁師とは異う。客に魚を与えることを多くするより、客に網漁に出たという興味を与えるのが主です。ですから網打だの釣船頭だのというものは、洒落が分らな・・・ 幸田露伴 「幻談」
出典:青空文庫