・・・日本には、半可通ばかりうようよいて、国土を埋めたといっても過言ではあるまい。 もっと気弱くなれ! 偉いのはお前じゃないんだ! 学問なんて、そんなものは捨てちまえ! おのれを愛するが如く、汝の隣人を愛せよ。それからでなければ、どうにも・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・浮塵子に似た緑色の小さい虫が、どの薔薇にも、うようよついていたのを、一匹残さず除去してやった。枯れるな、枯れるな、根を、おろせ。胸をわくわくさせて念じた。薔薇は、どうやら枯れずに育った。 私は、朝、昼、晩、みれんがましく、縁側に立って垣・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・もとより私は畜犬に対しては含むところがあり、また友人の遭難以来いっそう嫌悪の念を増し、警戒おさおさ怠るものではなかったのであるが、こんなに犬がうようよいて、どこの横丁にでも跳梁し、あるいはとぐろを巻いて悠然と寝ているのでは、とても用心しきれ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・外は深緑で、あんなに、まばゆいほど明るかったのに、ここは、どうしたのか、陽の光が在っても薄暗く、ひやと冷い湿気があって、酸いにおいが、ぷんと鼻をついて、盲人どもが、うなだれて、うようよいる。盲人ではないけれども、どこか、片輪の感じで、老爺老・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・男ありて大声叱咤、私つぶやいて曰く、船橋のまちには犬がうようよ居やがる。一匹一匹、私に吠える。芸者が黒い人力車に乗って私を追い越す。うすい幌の中でふりかえる。八月の末、よく観ると、いいのね、と皮膚のきたない芸者ふたりが私の噂をしていたと家人・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・狭い室におもちゃのような小さい低い机と椅子を並べて、それにいっぱい子供がうようよしている。みんな貧しそうな子ばかりで、中には風邪を引いたのがだいぶあって、かわいそうに絶えず咳をして騒々しい。白の頭巾に黒服で丸く肥った尼たちが二人そばに立って・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・見れば町の街路に充満して、猫の大集団がうようよと歩いているのだ。猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。どこを見ても猫ばかりだ。そして家々の窓口からは、髭の生えた猫の顔が、額縁の中の絵のようにして、大きく浮き出して現れていた。 戦慄から、私は殆んど・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 風が耳の処でひゅうと鳴り、下では小猿共が手をうようよしているのが実に小さく見えます。「よっしょい。よっしょい。よっしょい。」 ずうっと向うで、河がきらりと光りました。「落せっ。」「わあ。」と下で声がしますので見ると小猿共が・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・がうようよしていて、「高度武装」たる計画的な犯罪の挑発、捏造事件で人民の民主化を抑圧するために活躍している。 世界の民主主義者、良心ある人々が、国際ファシズムの一つの動きとして、MRAを批判していることは全く正しい。もし真実の道徳再建で・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・ここには何百人かしらないが、とても大勢の若い女がうようよしているところ。その女の人達は、まあこんなところで何をしてるんだろう、毎日毎晩。――」「このかいわいお医者は花柳病ばかり。おそらく小児科も産婆も用のないとこなんだろう。こんなかの女は誰・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫