・・・東京と大阪の感情は、永遠に氷炭相容れざるものと思う。だから、東京中心の今日の文学感情が、織田氏に反感を感じたことは、織田氏にとっては、それだけに大阪的であったということにもなるのであって、逆にいえば名誉である。おそらく、あの作品は大阪の読者・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・という気がされ、それがまた永遠の運命でもあるかのような気がされた。我と底抜けの生活から意味もなく翻弄されて、悲観煩悶なぞと言っている自分の憫れな姿も、省られた。 閉店同様のありさまで、惣治は青く窶れきった顔をしていた。そしてさっそくその・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・「課せられているのは永遠の退屈だ。生の幻影は絶望と重なっている」 梶井基次郎 「筧の話」
・・・これらの物音、たちまち起こり、たちまち止み、しだいに近づき、しだいに遠ざかり、頭上の木の葉風なきに落ちてかすかな音をし、それも止んだ時、自然の静蕭を感じ、永遠の呼吸身に迫るを覚ゆるであろう。武蔵野の冬の夜更けて星斗闌干たる時、星をも吹き落と・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・反逆の意志さえなきにまさるのである。永遠の恋、死に打ちかつ抱擁、そうしたイデーはもう「この春の流行」ではないとでも思っているのであろうか。 ヤンガー・ゼネレーションのこうした気風は私を嘆かしめる。私は彼らに時代の熱風が吹かんことを望まず・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・おそらくは、彼らのなかに一人でも、永遠の命はおろか、大隈伯のように、百二十五歳まで生きられるだろうと期待し、生きたいと希望している者すらあるまい。いな、百歳・九十歳・八十歳の寿命すらも、まずはむつかしいとあきらめているのが多かろうと思う。は・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・文明の結果で飾られていても、積み上げた石瓦の間にところどころ枯れた木の枝があるばかりで、冷淡に無慈悲に見える町の狭い往来を逃れ出て、沈黙していながら、絶えず動いている、永遠なる自然に向って来るのである。河は数千年来層一層の波を、絶えず牧場と・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・とんど親戚同士みたいな近い交際をしている場合、甚だ微妙な、それこそ飛石伝いにひょいひょい飛んで、庭のやわらかな苔を踏まないように気をつけるみたいな心遣いが必要なもので、正面切った所謂井伏鱒二論は、私は永遠にしないつもりなのだ。出来ないのでは・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・しかしその発展が出来ないで、永遠に愛くるしい見せ物に甘んじている。その名はドリスである。 ドリス自身には、技芸の発展が出来なくて気の毒だのなんのと云ったって、分からないかも知れない。結構ずくめの境界である。崇拝者に取り巻かれていて、望み・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・時代や流行とは無関係に永遠に伝えらるべき性質のものではないだろうか。 谷中から駒込までぶらぶら歩いて帰る道すがら、八百屋の店先の果物や野菜などの美しい色が今日はいつもよりは特別に眼についた。骨董屋の店先にある陶器の光沢にもつい心を引・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
出典:青空文庫