・・・(日本書紀 いかなる国の歴史もその国民には必ず栄光ある歴史である。何も金将軍の伝説ばかり一粲に価する次第ではない。 芥川竜之介 「金将軍」
・・・ 鬼神力が三つ目小僧となり、大入道となるように、また観音力の微妙なる影向のあるを見ることを疑わぬ。僕は人の手に作られた石の地蔵に、かしこくも自在の力ましますし、観世音に無量無辺の福徳ましまして、その功力測るべからずと信ずるのである。乃至・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・……と、場所がよくない、そこらの口の悪いのが、日光がえりを、美術の淵源地、荘厳の廚子から影向した、女菩薩とは心得ず、ただ雷の本場と心得、ごろごろさん、ごろさんと、以来かのおんなを渾名した。――嬰児が、二つ三つ、片口をきくようになると、可哀相・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・世に在りては義のために責められ、来世に在りては義のために誉めらる、単に普通一般の義のために責めらるるに止まらず、更に進んで天国と其義のために責めらる、即ちキリストの福音のために此世と教会とに迫害らる、栄光此上なしである、我等もし彼と共に死な・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・ もがきあがいて、作家たる栄光得て、ざまを見ろ、麻薬中毒者という一匹の虫。よもやこうなるとは思わなかったろうね。地獄の女性より。」月日。「謹啓。太宰様。おそらく、これは、女性から貴方に差しあげる最初の手紙と存じます。貴方は、女だ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 作家としての栄光の、このように易々と得られたことが、私にとって意外であった。窮すれば通ず、という俗言をさえ、私は苦笑しながら呟いたものであった。もはや、私は新進作家である。誰ひとり疑うひとがなかった。ときどきは、私自身でさえ疑わなかっ・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・夫妻がノーベル賞を授与された祝賀会の講演で次のようにのべたピエールの言葉こそ、キュリー夫妻を不滅にした科学の栄光であると思います。「私は人間が新しい発見から悪よりも寧ろ善をひき出すと考える者の一人であります」と。〔一九三九年十二月〕・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・の主観的女権尊崇の栄光を讚していられる。 私が感想を刺戟されたのは、この文章で山川菊栄ともある婦人が、問題を個人的な自分を中心としての身辺観察の中にだけ畳みこんでみずから怪しまれない点であった。柳原子氏の玉の井ハイキング記に連関してその・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ヨーロッパの自然は、ギリシャ時代、ルネッサンスにあってはアポロだのジュピターだのという伝説の神々の仮名で重々しく擬人化され、美化され、中世紀は、たとえそれは栄光的であるとしても全く人為的な、神学の造化物として描かれた。あのように科学的天稟ゆ・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・「今一つの肉は好いが、営口に来て酔った晩に話した、あの事件は凄いぜ。」こう云って、女房の方をちょいと見た。 上さんは薄い脣の間から、黄ばんだ歯を出して微笑んだ。「本当に小川さんは、優しい顔はしていても悪党だわねえ。」小川と云うのは記者の・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫