・・・東京の都市は王政復古の後早くも六十年の星霜を閲しながら、猶防火衛生の如き必須の設備すら完成することが出来ずにいる。都市のことを言うに臨んで公園の如き閑地の体裁について多言を費すのは迂愚の甚しきものであろう。昭和二年六月記・・・ 永井荷風 「上野」
・・・芸術は遂に国家と相容れざるに至って初めて尊く、食物は衛生と背戻するに及んで真の味を生ずるのだ。けれども其処まで進もうというには、妻あり子あり金あり位ある普通人には到底薄気味わるくて出来るものではない。そこで自然と、物には専門家と素人の差別が・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ 衛生を重ずるため、出来る限りかかる不潔を避けようためには県知事様でもお泊りになるべきその土地最上等の旅館へ上って大に茶代を奮発せねばならぬ。単に茶代の奮発だけで済む事なら大した苦痛ではないが、一度び奮発すると、そのお礼としてはいざ汽車・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・茶も過度に飲めば衛生に害あり、況んや酒量を過すに於てをや、男女共に慎しむ可きことなり。是れも本文の通りにて異議なけれども、歌舞伎小唄浄瑠璃を見聴くべからず、宮寺等へ行くことも遠慮す可しとは如何ん。少しく不審なきを得ず。抑も苦楽相半するは人生・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
一 夫れ女子は男子に等しく生れて父母に養育せらるゝの約束なれば、其成長に至るまで両親の責任軽からずと知る可し。多産又は病身の母なれば乳母を雇うも母体衛生の為めに止むを得ざれども、成る可くば実母の乳を以て養う可し。母体平生の健・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・人間衛生の事なり、活計の事なり、社会の交際、一人の行状、小は食物の調理法より大は外国の交際に至るまで千差万別、無限の事物を僅々数年間の課業をもって教うべきに非ず、学ぶべきに非ず。たとえ、その一部分にてもこれを教えて完全ならしめんとするときは・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・アンモニアの効くことは県の衛生課長も声明しています。」「あてにならん。」「そうですか。とにかく、だいぶ腫れて参ったようです。」 親方のアーティストは、少ししゃくにさわったと見えて、プイッとうしろを向いて、フラスコを持ったまま向う・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・例えば技術詮衡部衛生部その他重要な生産計画部、文化部などがあって、どんな大工場の管理者でもこの工場委員会の決定に従って行動しなければならないようになっている。ブルジョア・地主の工場のように、社長、重役とか主任とか監督とか、威張って搾るばかり・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ 明日の農村の希望はまた生活の習慣や衛生条件の改善にある。共同炊事や托児所や診療施設など。若い農村の女性こそ青年たちと力を合わせ、新しい農村は生活を建設してゆく輝きでなければならないと思う。・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
・・・級全体が選挙して、文化委員、衛生委員、学務委員というものを何人かずつきめる。 その委員たちが、みんなといろいろ相談し、学校の湯呑場、手洗場が清潔かどうかということから、先学期は、どの課目が級全体としておくれたから、今学期はそれをどうとり・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
出典:青空文庫