・・・文壇の外に出るということが言われているのであるが、抽象的な文壇はその人々の経済生活を支えるための出版活動をしていたというのではないから、執筆は従来も営利的な出版物の上にされていた訳である。作品の市場としての今日の新聞雑誌、単行本出版のことは・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
封鎖で原稿料を払うということは、これから作品をかいてゆく人のために、ますます条件がわるい、新しい作家、新しい日本の文学は生れにくい、ということである。今日、出版は、大部分が営利に立っている。営利の目やすから、荷風のところへ・・・ 宮本百合子 「作家への新風」
・・・如何程鋭利に研かれた小刀も其を動かす者の心の力に依って鈍重な木片となる事を私共は知らなければならないのでございます。 斯様に考えて来ると、私共は、米国女性一般が果して、彼女等の権能を如何程までの反省を以て把持して居るだろうかと思わずには・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・こういう芸術味のある歌も、営利の為につまらぬ興業師などに利用されて、歌の上手な婦人で思わぬ不幸な運命に陥いる事があります。アイヌの歌を真に理解して、それに興を覚えて聞くならよいでしょうが、見世物のようにされては可哀想です。 彫刻など・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・父のところには、とにかくそういう英語で、しかも絵入りのがあるので、何か欲しいとせがんだら一冊の紫紺色表紙の本を貸してくれました。「古代ギリシア彫刻家」という題で、父が云うには、これはためになる本だし、絵もあり、活字もパラリとしていて、書いた・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・ ――だって、お前、ソヴェト同盟じゃ、あんなにプロレタリアートの階級意識を眠らす毒薬として宗教撲滅運動やってるじゃないか、見たよ、ソヴェトで出してる面白い絵入りの反宗教雑誌を。 ――確にそうさ。ソヴェト同盟のその運動は革命当時から着・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
・・・俗悪出版企業者は、現代の心理の一面を、誇張し、煽情し、刺戟して、一銭でもより多く投じさせようとする。営利映画会社では、より濃厚な情痴の場面を、と先をあらそっている。 次第に覚醒している日本の民衆が肚の底からそのためにたたかっているより明・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ 誕生このかた不断の栄養失調のうちに辛うじて息づいて来た旧日本文学の精神は、全く非人間的な擅断と営利主義とによって導かれた自身の崩壊さえも、その事実の重大さにおいて自覚し得なかった。 新しい文学創造の源泉は決して器用な便乗の手際には・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
・・・ 二階の壁に、絵入りのスモーリヌイ勤労者壁新聞が張り出してある。 スモーリヌイの外観は快活である。そのように内部も清潔で、白い。極めてさっぱりしている。 三階の廊下へ入るところに、赤衛兵が番をしている。許可証を赤衛兵にわたした。・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・それは紙の問題である。営利出版は一巻の紙から最も高率な利潤を求め、必ずうれることを求める。その結果一番うれる最低の安全性としてエロティシズムに陥っている。これは出版関係の専門家の解剖である。『星』や『レーニングラード』は営利雑誌ではない・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫