・・・……と、場所がよくない、そこらの口の悪いのが、日光がえりを、美術の淵源地、荘厳の廚子から影向した、女菩薩とは心得ず、ただ雷の本場と心得、ごろごろさん、ごろさんと、以来かのおんなを渾名した。――嬰児が、二つ三つ、片口をきくようになると、可哀相・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・当時、戯作者といえば一括して軽薄放漫なるがいがいしゃ流として顰蹙された中に単り馬琴が重視されたは学問淵源があるを信ぜられていたからである。 私が幼時から親しんでいた『八犬伝』というは即ちこの外曾祖父から伝えられたものだ。出版の都度々々書・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ いくらしても片端じから崩れたり解れたりしてものにならない藁束に向って、彼女の満身の呪咀と怨言が際限もなく浴せかけられたのである。 引きちぎったり踏み躪ったりした藁束を、憎さがあまって我ながら、どうしていいのか分らないように足蹴にし・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫