・・・監督の阿見も、坂田も、遠藤も彼女をねらっていた。「石川さん、お前におかしいだろう。」 井村は、口と口とを一寸位いの近くに合わしながら、そんなことを云ったりした。「それはよく分っている。」「阿見だって、遠藤だってそうだぞ。」・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・昨日わが窓より外を眺めていたら、たくさんの烏が一羽の鳶とたたかい、まことに勇壮であったとか、一昨日、墨堤を散歩し奇妙な草花を見つけた、花弁は朝顔に似て小さく豌豆に似て大きくいろ赤きに似て白く珍らしきものゆえ、根ごと抜きとり持ちかえってわが部・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・この男の通らぬことはいかな日にもないので、雨の日には泥濘の深い田畝道に古い長靴を引きずっていくし、風の吹く朝には帽子を阿弥陀にかぶって塵埃を避けるようにして通るし、沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って、もうあの人が通ったから、あなたお・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・麦の畑でない処には、蚕豆、さや豌豆、午蒡の樹になったものに、丸い棘のある実が生って居るのを、前に歩いて行った友に、人知れず採って打付けて遣ったり何かすると、友は振返って、それと知って、負けぬ気になって、暫く互に打付けこをするのも一興である。・・・ 田山花袋 「新茶のかおり」
・・・ 子供の時分にとんぼを捕るのに、細い糸の両端に豌豆大の小石を結び、それをひょいと空中へ投げ上げると、とんぼはその小石をたぶん餌だと思って追っかけて来る。すると糸がうまいぐあいに虫のからだに巻きついて、そうして石の重みで落下して来る。あれ・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 子供の時分に蜻蛉を捕るのに、細い糸の両端に豌豆大の小石を結び、それをひょいと空中へ投げ上げると、蜻蛉はその小石を多分餌だと思って追っかけて来る。すると糸がうまい工合に虫のからだに巻き付いて、そうして石の重みで落下して来る。あれも参考に・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・コメススキや白山女郎花の花咲く砂原の上に大きな豌豆ぐらいの粒が十ぐらいずつかたまってころがっている。蕈の類かと思って二つに割ってみたら何か草食獣の糞らしく中はほとんど植物の繊維ばかりでつまっている。同じようなのでまた直径が一倍半くらい大きい・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・軽井沢一帯を一メートル以上の厚さにおおっているあの豌豆大の軽石の粒も普通の記録ではやはり降灰の一種と呼ばれるであろう。 毎回の爆発でも単にその全エネルギーに差等があるばかりでなく、その爆発の型にもかなりいろいろな差別があるらしい。しかし・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・よく見ると、たぶん、ついそこの荷揚場から揚げる時にこぼれたものだろう、一握りばかりの豌豆がこぼれている。それが適当な湿度と温度に会って発芽しているのであった。 植物の発育は過去と現在の環境で決定される。しかし未来に対する考慮は何の影響も・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・それでもねもとのダイナマイトの付近だけはたしかに爆裂するので、二三百メートルの距離までも豌豆大の煉瓦の破片が一つ二つ飛んで来て石垣にぶつかったのを見た。 爆破の瞬間に四方にはい出したあのまっかな雲は実に珍しいながめであった。紅毛の唐獅子・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
出典:青空文庫