・・・その頃緑雨の艶聞がしばしば噂された。以前の緑雨なら艶聞の伝わる人を冷笑して、あの先生もとうとう恋の奴となりました、などと澄ました顔をしたもんだが、その頃の緑雨は安価な艶聞を得意らしく自分から臭わす事さえあった。 小田原へ引越してから一度・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・二葉亭は多情多恨で交友間に聞え、かなり艶聞にも富んでいたらしいが、私は二葉亭に限らず誰とでも酒と女の話には余り立入らんから、この方面における二葉亭の消息については余り多く知らない。ただこの一夜を語り徹かした時の二葉亭の緊張した相貌や言語だけ・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・三浦君は苦笑して、次のような羨やむべき艶聞を語った。艶聞というものは、語るほうは楽しそうだが、聞くほうは、それほど楽しくないものである。私も我慢して聞いたのだから、読者も、しばらく我慢して聞いてやって下さい。 どっちにしたらいいか、迷っ・・・ 太宰治 「律子と貞子」
・・・ それから少しきたない話ではあるが、昔田舎の家には普通に見られた三和土製円筒形の小便壺の内側の壁に尿の塩分が晶出して針状に密生しているのが見られたが、あれを見るときもやはり同様に軽い悪寒と耳の周囲の皮膚のしびれを感ずるのであった。 ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ところがその説明が現在の科学の与えている海水塩分起原説とある度までよく一致しているから面白い。 また河水が流れ込んでも海が溢れない訳を説明する華厳経の文句がある。大海有四熾燃光明大宝。其性極熱。常能飲縮。百川所流無量大水。故大海無有増減・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・これは一つには日本の海岸線が長くて、しかも広い緯度の範囲にわたっているためもあるが、さらにまたいろいろな方向からいろいろな温度塩分ガス成分を運搬して沿岸を環流しながら相錯雑する暖流寒流の賜物である。これらの海流はこのごとく海の幸をもたらすと・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・次には海水自身を区別してその塩分の多少、混濁物や浮遊生物の多少などによっての差を考えねばならない。また海面の静平であるか波立っているかによって如何なる相違があるかという事も考えねばなるまい。これだけの区別をしてもまだ問題は曖昧である。光線が・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
出典:青空文庫