・・・と、まことに鷹揚な首領の返事や「それは落選候補の公約であった」という名回答もありました。 日比谷の放送討論会などの席上では、大変賑やかに食糧事情対策が論ぜられます。野草のたべかたについての講義――云いかえれば、私たち日本の人間が、ど・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・この手紙の内容は、誰にでもすぐ考えられるとおり、キュリー夫妻が世間の人たちが誰でもやっているとおり自分の発見に特許をとって、ラジウム応用のあらゆる事業から莫大な富を独占するか、それとも、そんなことは一切せず、科学上の発見を人類の進歩のために・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 大根を葱からよりわけるように、文化上の健全なものと不健全なものとを二つの山によりわけて、健全なものときまった方のものは、どんな応用のしかたをしてもその健全さは変らないと、金剛石さえ焼ければ消えることのある現実を忘れたような解釈が、知ら・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・科学上の原理の発展への努力、その努力によってもたらされた成果の後を応用的な部面が跟いてゆくのは必然であって、日本の科学性というものは、歴史との関係から見てもこの意味でどの程度自給自足であるのか。そのことも考えられる。 現在の私たちが生き・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・母親や娘は、彼女等の手芸、刺繍、パッチ・ウワーク等を応用して、暇々に、新たな壁紙に似合う垂帳、クッション、足台等を拵える。 公共建築や宮殿のようなものは例外として、中流の、先ず心の楽しさを得たい為に、居心地よい家を作ろうとするような者は・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・おめにかかれば、先生はああいう方であるからそつのない、鷹揚な、包括力ある言葉をかけて下さったであろうと思う。 坪内先生は非常に聰明な資質の先達者であった。正宗白鳥氏が先日、逍遙博士は文学の師であるばかりでなく生死に処する道を教えた方であ・・・ 宮本百合子 「坪内先生について」
・・・或、真似がたい鷹揚さと云えないこともない。京都や奈良が、決して自分の年功を忘れない老人のようなのと、興味ある対照と思う。 午後になっても、Y切なく、外出覚つかない。番頭、頼山陽の書など見せてくれる。折々、港の景色をぼやかして、霧雨がする・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ 天狗は鷹揚に「なんだ、早く云え」と云った。「話では、天狗は変通自在のものだと云います。私もどうせ喰われるからには、どうか一目あなたがほんとの大天狗かどうかを、見て死にたいと思います」 天狗はカラカラと笑って「雑作もないことだ。・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・を主義宣伝に応用しているから、一応尤もだとも云われよう。小説や脚本には、世界中どこの国でも、格別けむたがっているような作はない。それを危険だとしてある。「戦争と平和」で、戦争に勝つのはえらい大将やえらい参謀が勝たせるのではなくて、勇猛な兵卒・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・石田が偶に呑む葉巻を毛布にくるんで置くのは、火薬の保存法を応用しているのである。石田はこう云っている。己だって大将にでもなれば、烟草も毎日新しい箱を開けるのだ。今のうちは箱を開けてから一月も保存しなくてはならないのだから、工夫を要すると云っ・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫