・・・ 雨あがりだから、おっとりした関西風の町並、名物の甃道は殊更歩くに快い。樟の若葉が丁度あざやかに市の山手一帯を包んで居る時候で、支那風の石橋を渡り、寂びた石段道を緑の裡へ登りつめてゆく心持。長崎独特の趣きがある。実際、長崎という市は、い・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・紫の君の何も思わぬげなおっとりした目を見たせつなに「今に私の人になる人なんだ」と思った光君の瞳はもえるようにかがやき初めた、その光のあるその目の前には美くしい、可愛い、忘れられない紫の君の姿をやわらかく包んでかげろうがもえて居る。そのか・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ 何と云う痛ましい事かと思うと、彼の人の大まかな、おっとりした物ごしが一々目に見えて来る。 根気が強くて、どんな細かしい事でもコツコツとやって居た。 何だか生え際の薄い様な人であったがなどとも思われる。 低いどっちかと云えば・・・ 宮本百合子 「ひととき」
出典:青空文庫