・・・下宿屋の食堂なんぞでもそんな話をするものはない。オペラやクラシック音楽の話はするけれども、普通のレヴューや寄席の話さえ食事のテーブルなどで、殊に婦人の前などでは口にしてはならない。これが西洋の習慣なのである。日本ではあることないこと何でも構・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ちっとオートでも振る舞ところがタスケの馬も馬でさあ、面白がってオペラのようにふしをつけてだなんてやったもんです。バキチもそこはのんきです。やっぱりふしをつけながら、(お呉とうなっていました。そこへ丁度わたしが通りかかりました。おい、おい、バ・・・ 宮沢賢治 「バキチの仕事」
・・・ 六月某日。 オペラの「蝶々夫人」を今日の日本人が見て、非現実的に感じるのは自然である。近衛秀麿氏が今度それを改作する由、お蝶夫人が歌手で、ピンカートンである音楽家が京都へ演奏旅行をして、最後は、お蝶がヨーロッパへ演奏に行ってその音・・・ 宮本百合子 「雨の小やみ」
・・・「いや、オペラのです。」 こういう無駄口はきくが、インガが第三交代の婦人労働者達に約束した托児所増設のための図面は、場所がないと云って、提出しない。「私、今日出して下さるように願っておきましたよ。」「御存じでしょうが……」・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・併し、常磐津、長唄、管絃楽と、能がかりな科白とオペラの合唱のようなものとの混合は、面白い思いつきと云う以上、何処まで発育し得るものであろう。自分には分らない。とにかく邯鄲は、材料も適したものであったと云えよう。「犬」は、しんみりと演じ、・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 古典的なオペラ・バレーを演じている国立オペラ舞踊劇場でさえ「蹴球選手」という五ヵ年計画を主題の中へとり入れたバレーを上演した。 カターエフの「前衛」がワフタンゴフ劇場で演じられる。 レーニングラードからきたトラムは農村における・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ ○メゾン ファシール、 ○チョプスイ。○アムステルダム ○岩本さんのところ。○バン コートランド。 ○オペラ。 ○芝居。 ○西村さんのところ。 〔欄外に〕插話。 講演会。日米週報社より、本田が広告を見て・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・うとして、紳士がそんな物をぶら下げてお歩きにならなくても、こちらからお宿へ届けると云われ、頼んで置いて帰ってみると、品物が先へ届いていた事や、それからパリイに滞在していて、或る同族の若殿に案内せられてオペラを見に行った時、フォアイエエで立派・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・「明日のオペラ座の切符手に入り候に付、主人同道お誘いに参り可申候、何卒御待受被下度候。母上様」と云うのでした。お母あ様の所へ出す手紙を、あなたはわたくしの部屋に落してお置きになったですねえ。 女。おや。そうでしたか。あの手紙はあなたの所・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・それでなくては舞台上の統一は取れないのである。オペラや能と違って人形浄瑠璃においては音楽は純粋に音楽家が、動作は純粋に人形使いが引き受ける。そこで動作の心使いに煩わされることのない音楽家の音楽的表現が、直ちに動作する人形の言葉になる。人形は・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫