・・・ お梅が帽子と外套を持ッて来た時、階下から上ッて来た不寝番の仲どんが、催促がましく人車の久しく待ッていることを告げた。 平田を先に一同梯子を下りた。吉里は一番後れて、階段を踏むのも危険いほど力なさそうに見えた。「吉里さん、吉里さ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・けれども、いまやっと、人間の基本的人権の確立がいわれるようになったとき、日本の知識階級の若い女性たちは、自分たちめいめいの運命の開花の問題として民主主義社会建設の課題を、どのように真剣にとりあげはじめているであろうか。自分の才能の達成と、愛・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
一 新聞というものについての考えかたも、それぞれの時代によって大きい変化を経て来ていると思う。 明治の開化期、日本にはじめて新聞が発刊された時分、それはどんなに新鮮な空気をあたりに息吹かせなが・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・男と女とが、互にほんとに男らしく、ほんとうに女らしく、安心して自分たちの性の人間らしい開花をたのしみながら、めいめいの特色による職能の特徴も生かしてゆく状態であることがわかる。性別いかんにかかわらず法律のまえに平等である、という憲法の実現の・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・この性格は、士分のものが来るべき「開化」の担当者であるべきだという見通しに立ったものであった。そして、明治維新という不具なブルジョア革命は、事実ヨーロッパにおけるように市民による革命ではなくて、下級武士とその領主たちが、一部にふるいものをひ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・ト作家としてシーモノフの名と作品を知っている日本の人々に、シーモノフが工場の文学サークルから文学的誕生をしてのびて来るそれ以前の時期において、ソヴェト社会は、その勤労人民の日常生活にどんな文化、文学の開花の可能性を準備していたかという実際を・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・それは、文学はもとより理論ばかりの上に開花するものではないけれども、わたしたちが今日から明日へと生活の真実と文学の良心とを発展させてゆくためには、どんなに世界歴史の進行に即する正しい認識がなければならないかということである。すべてのファシズ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・は明治開化期の日本の文化のありようと、後に日本の科学の大先輩として貢献した人々の若き日の真摯な心情とを、医学者としてのベルツ、生物学者としてのモールスが記述していて、文学における小泉八雲、哲学のケーベル博士、美術のフェノロサの著述とともに、・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・いまわたしたちが封建社会の崩壊期として理解している幕末と、中途半端な開化期として理解している明治初年についてのさまざまの物語りをもって。おゆきは、二人の祖母のだれも示さなかったやりかたで、明治初年の東京の庶民ぐらしの気分をつたえたたった一人・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ハンザ同盟に加っていたヨーロッパのいくつかの自由都市は、それぞれのわが市から出発して商業の上で世界を一まわりしていたばかりでなく、当時の文化を、めいめいのところで最高にまで開花させていたのであった。 寧ろ、現代の資本主義が強く文化分野を・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
出典:青空文庫