・・・――「美華禁酒会長ヘンリイ・バレット氏は京漢鉄道の汽車中に頓死したり。同氏は薬罎を手に死しいたるより、自殺の疑いを生ぜしが、罎中の水薬は分析の結果、アルコオル類と判明したるよし。」・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ 我ら十七名の会員は心霊協会会長ペック氏とともに九月十七日午前十時三十分、我らのもっとも信頼するメディアム、ホップ夫人を同伴し、該ステュディオの一室に参集せり。ホップ夫人は該ステュディオにはいるや、すでに心霊的空気を感じ、全身に痙攣を催・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・……花田さん、あなたは才覚があって画がお上手だから、いまにりっぱな画の会を作って、その会長さんにでもおなりなさるわ。お嫁にしてもらいたいって、学問のできる美しい方が掃いて捨てるほど集まってきてよきっと。沢本さんは男らしい、正直な生蕃さんね。・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ ――金石の湊、宮の腰の浜へ上って、北海の鮹と烏賊と蛤が、開帳まいりに、ここへ出て来たという、滑稽な昔話がある―― 人待石に憩んだ時、道中の慰みに、おのおの一芸を仕ろうと申合す。と、鮹が真前にちょろちょろと松の木の天辺へ這って、脚を・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・アレだけの長い閲歴と、相当の識見を擁しながら次第に政友と離れて孤立し、頼みになる腹心も門下生もなく、末路寂寞として僅に廓清会長として最後の幕を閉じたのは啻に清廉や狷介が累いしたばかりでもなかったろう。四 沼南は廃娼を最後の使・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・坪内君が世間から尊敬せらるゝのは早稲田大学の元老、文学博士であるからで、舞踊劇の作者たり文芸協会の会長たるは何等の重きをなしていないからである。 社会をして文人の権威を認めしめよ。文人は社会に対して宣戦せよ。"Murmur&q・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ そして、翼の白い海鳥が飛んでいました。 笛には、いくつかの小さな穴があいています。 その一つ一つの穴から、吹くと、ちがった音が出ました。 笛は短い赤と青とに、その色が塗り分けてありました。 大きな穴が一つ、小さな同じよ・・・ 小川未明 「赤い船のお客」
・・・ 少年は、おじいさんのげたの鼻緒をたてていますと、あごひげの白いおじいさんは、つえによりかかってあたりを見まわしていましたが、「あすは、お寺のお開帳で、どんなにかこの辺は人通りの多いことだろう。お天気であってくれればいいが。」といい・・・ 小川未明 「石をのせた車」
・・・ 少年は、おじいさんのことを思うと、胸がいっぱいになりました。いつしか自分の弾いているバイオリンの音は、悲しい響きをたてていたのでした。 海鳥は、しきりに鳴いています。頭の上の松の木を渡る風の音まで、バイオリンの音に心をとめて、しの・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・「これかい、これは海鳥だ。昨夜、おじいさんが、この鳥に乗って帰ってきなすったのだ。」と、お母さんはいわれました。 おじいさんが帰ってきなすったと聞いて、太郎は大喜びでありました。さっそく、おじいさんのへやへいってみますと、おじいさん・・・ 小川未明 「大きなかに」
出典:青空文庫