・・・刊行責任者となり、飢饉救済委員会長として、国際的なアッピールを行った。ロシアの大衆を圧していた限りない不幸、その軛がはずされたこと及びゴーリキイ自身物心づくとからそれによって心臓をひんむかれるような苦痛を感じて来た沼のような無智、野蛮、屈従・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・さらに荷風は男女の恋愛をも、その忍び泣き、憂悶、不如意とくみ合わせた諧調で愛好するのであるから、元より女が、私は愛する権利がありますと叫んで、公然闘う姿を想像し得ない。これらの事情が、荷風の現実としては「婦人参政権の問題なぞもむしろ当然のこ・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・ 微妙な線、こまやかな濃淡、魔力ある抑揚、秘めやかな諧調、そういう技巧においてもまた、私の生まれつきのうぬぼれは製作によって裏切られる。要するに私は要求と現実とを混同する夢想家に過ぎなかった。 こうして私は自分の才能に失望してかなり・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・相重なった屋根の線はゆったりと緩く流れて、大地の力と蒼空の憧憬との間に、軽快奔放にしてしかも荘重高雅な力の諧調を示している。丹と白との清らかな対照は重々しい屋根の色の下で、その「力の諧調」にからみつく。その間にはなお斗拱や勾欄の細やかな力の・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫