・・・たとえば流氷のようなものでも舷側で押しくずされるぐあいや、海馬が穴から顔をだす様子などから、その氷塊の堅さや重さや厚さなどが、ほとんど感覚的に直観される。雪原の割れ目などでも、橇で乗り越して行く時にくずれるさまなどから、その割れ目の状況や雪・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・すぐその前に水を入れた飼葉槽が置いてあるが、中の水は真黄色な泥水である。こんなきたない水を飲んだのだろうかと思うと厭な心持がした。馬の唇にはやはり血泡がたまっていた。 私は平生アンチヴィヴィセクショニストなどという者に対して苦々しい感じ・・・ 寺田寅彦 「断片(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・と見れば、わたくしの立っている土手のすぐ下には、古板で囲った小屋が二、三軒あって、スエータをきた男が裸馬に飼葉を与えている。その側には朝鮮人の女が物を洗っている。わたくしは鉄道線路を越しながら、このあたりの光景を名づけて何というべきものかと・・・ 永井荷風 「元八まん」
出典:青空文庫