・・・きょうは会社に出勤、忘年会とか、いちいち社員から会費を集めている。酒盛り。ぼくは酒ぐせ悪いとの理由で、禁酒を命じられ、つまらないので、三時間位、白い壁の天井を眺めながら、皆の馬鹿話を聞いていました。それから御得意に挨拶に行き、会員、主任のう・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・彼女は、家兎の目を宿して、この光る世界を見ることができ、それ自身の兎の目をこよなく大事にしたい心から、かねて聞き及ぶ猟夫という兎の敵を、憎しみ恐れ、ついには之をあらわに回避するほどになったのである。つまり、兎の目が彼女を兎にしたのでは無くし・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・ 四、五日前役所で忘年会の廻状がまわった。会費は年末賞与の三プロセント、但し賞与なかりし者は金弐円也とあった。自分は試験の準備でだいぶ役所も休んだために、賞与は受けなかったが、廻状の但し書が妙に可笑しかったからつい出掛ける気になって出席・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・そうならないためには、今から教育者の地位にある当局者は、この眼前の生きた現象を徒に回避する代りに、これに直面してもう少し積極的な手段を取るべきではないか。あえて本誌の読者の一考を煩わしたいと思った次第である。・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・くり継承した日本人が、もしも日本の自然の特異性を深く認識し自覚した上でこの利器を適当に利用することを学び、そうしてたださえ豊富な天恵をいっそう有利に享有すると同時にわが国に特異な天変地異の災禍を軽減し回避するように努力すれば、おそらく世界じ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ こういうふうに考えて来ると世事の交渉を回避する学者や、義理の拘束から逃走する芸術家を営巣繁殖期に入った鳥の類だと思って、いくぶんの寛恕をもってこれに臨むということもできるかもしれない。 九 東京市電気局の争・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・つの国語の間の少数な語彙の近似から、大胆に二つのものの因果関係を帰納せんとする人もあるようであり、また一方においてあまりに細心で潔癖なために、暗合の悪戯に欺かれる事を恐れてこの種の比較に面迫することを回避する人もあるかもしれない。自分にはこ・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・この場合に結果を都合のよいようにこじつけたり、あるいは有耶無耶のうちに葬ったり、あるいは予期以外の結果を故意に回避したりするような傾向があってはならぬ。却って意外な結果や現象に対しては十分な興味をもってまともに立向かい、判らぬ事は判らぬとし・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・赤いてがらは腰をかけ、両袖と福紗包を膝の上にのせて、「校友会はどうしちまったんでしょう、この頃はさっぱり会費も取りに来ないんですよ。」「藤村さんも、おいそがしいんですよ、きっと。何しろ、あれだけのお店ですからね。」「お宅さまでは・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・真に人間の心と体とが暖り合う家庭を破壊しながら、あらゆる社会的困難が発生すると、女子はすぐ家庭へ帰れるかのように責任回避して語られる。けれども、私たちの現実は、どうであろう。私たちに、もし帰る家庭があるならば、それこそ私たち自身の社会的な努・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
出典:青空文庫