・・・いや、人の好い藤左衛門の如きは、彼自身にとってこの話が興味あるように、内蔵助にとっても興味があるものと確信して疑わなかったのであろう。それでなければ、彼は、更に自身下の間へ赴いて、当日の当直だった細川家の家来、堀内伝右衛門を、わざわざこちら・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・わたしは馬政紀、馬記、元享療牛馬駝集、伯楽相馬経等の諸書に従い、彼の脚の興奮したのはこう言うためだったと確信している。―― 当日は烈しい黄塵だった。黄塵とは蒙古の春風の北京へ運んで来る砂埃りである。「順天時報」の記事によれば、当日の黄塵・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ 彼等は皆云い合せたように、こう確信していたのである。役人は彼等を縛めた後、代官の屋敷へ引き立てて行った。が、彼等はその途中も、暗夜の風に吹かれながら、御降誕の祈祷を誦しつづけた。「べれんの国にお生まれなされたおん若君様、今はいずこにま・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・ 答 諸君のごとく確信するあたわず。 問 君の交友の多少は如何? 答 予の交友は古今東西にわたり、三百人を下らざるべし。その著名なるものをあぐれば、クライスト、マインレンデル、ワイニンゲル…… 問 君の交友は自殺者のみなりや・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・この確信は今日でも未だに少しも揺がずにいる。 又 打ち下ろすハンマアのリズムを聞け。あのリズムの存する限り、芸術は永遠に滅びないであろう。 又 わたしは勿論失敗だった。が、わたしを造り出したものは必ず・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・少くとも保吉は誰に聞いたのか、狸の莫迦囃子の聞えるのは勿論、おいてき堀や片葉の葭も御竹倉にあるものと確信していた。が、今はこの気味の悪い藪も狸などはどこかへ逐い払ったように、日の光の澄んだ風の中に黄ばんだ竹の秀をそよがせている。「坊ちゃ・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・ もし階級争闘というものが現代生活の核心をなすものであって、それがそのアルファでありオメガであるならば、私の以上の言説は正当になされた言説であると信じている。どんな偉い学者であれ、思想家であれ、運動家であれ、頭領であれ、第四階級な労働者・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・たとえば人の噂などをする場合にも、実際はないことを、自分では全くあるとの確信をもって、見るがごとく精細に話して、時々は驚くような嘘を吐くことが母によくある。もっとも母自身は嘘を吐いているとは思わず、たしかに見たり聞いたりしたと確信しているの・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・金にしては何ほどにもならないが、創作としては、よしんば望んでいた脚本が出来たとしても、その脚本よりかずッと傑作だろうという確信が出た。 僕のからだは、土用休み早々、国府津へ逃げて行った時と同じように衰弱して、考えが少しもまとまらなくなっ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・当時の文学革新は恰も等外官史の羽織袴を脱がして洋服に着更えさせたようなもので、外観だけは高等官吏に似寄って来たが、依然として月給は上らずに社会から矢張り小使同様に見られていたのである。 坪内氏が相当に尊敬せられていたのは文学士であったか・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
出典:青空文庫